きわめて私事の話 〜 1年後
昨年の春、私は↓のようなエントリーを書いた。
会社を辞めたのが昨年5月。
それから1年2カ月がたって、結局、私は出版業に戻ることになった(といっても電子書籍だが)。
実は会社を辞めた当初は、この業界に戻ることはないだろうと思っていた。なにしろ見切りをつけて辞めたのだから。
しかし、25年間の会社員生活を経て、わずかでも身についたものがあるとすれば、それは出版に関わること、とくにノンフィクションの書籍を制作することだった(これだけは、いまはなくなってしまった「カッパ・ブックス」で叩き込まれた)。
そうして、辞めた直後は有田芳生さんの参議院選挙を手伝ったりしていたが、それも終了すると、秋口からはなんとなく電子書籍の制作に関わる仕事を始めていた。
といっても、それは大きなお金になるようなものではなかったのだが、しかしその過程で気がついたのは電子書籍でも出版編集の経験は役立つということだった。しかもその人数はまだ少ない。
逡巡しながらも、「だったら電子書籍をやってみようかーー」と思い始めたところで3.11がやって来た。
なにしろ私は反原発なので当初はずいぶんとうろたえたが、少し落ち着いてくると、「自分のブログの中で原発とメディアに関するエントリーをピックアップして、電子書籍のデータを作ってみようかな」と思いつき、実際にやってみると、データを作るところまではできそうだった。
「こうなってくると売りたいな」と思うのは人情である。そこでボイジャーに持ち込んでみると、これを快く了承してくれて、しかも私自身が発行元になることもOKだという。そしてさらに、「せっかくやるのなら、他にも出してみてはどうですか?」という提案までいただいたのだった。
もっとも、最初は「そう言われてもどうしたものか、、、」と思ったのだが、考えているうちにいくつかの企画が浮かんで来た。
実は電子書籍の側から、いまの大手出版社のやり方を見ていると、意外に隙間があることに薄々気がついていた。が、だからといってその隙間が商売になるかどうかはわからない。
そもそも、これまで会社を辞めて自分で出版社を作ってみたものの、何冊かの本を出してすぐにコケたという話はこの業界にはゴマンと転がっている。
かつて出版業は「机と電話があれば、明日からできる」などと言われたものだが、実際はそう簡単なものではなく、たとえいい原稿があったとしても、紙を買ってそれを印刷し、取次ぎを通して書店に流通させなければならない。その間には、たとえどんなに少部数の本でも100万単位のカネがかかる。しかもこれが売れなければ返本となり、在庫リスクが発生する。つまり出版業とはそう簡単なものではないのである。
ところが、電子書籍の場合は制作コストが紙の本とは比較にならないほど劇的に安い。しかも在庫リスクがなく、さらに絶版もない。
そう考えてみると、大きな部数を望めない本であっても出すことはできる。もともとベストセラーを出せるような編集者ではなかった私としては、これは悪くない話である(笑)。
ということで改めて考えてみると、いくつかの企画が思い浮かんできた。それは当然のことながら大部数を望めるものではなかったが、逆に言えばこれまで商業出版社に属していた身として、私のような者でも部数というものに第一義的に企画が縛られていたことに気づかされもした。
そうしてみると、少なくとも何冊かの電子書籍は作れそうである。だが、そのために会社まで設立するのもどうかと最初は思ったのだが、これについては出版契約書を個人で交わすわけにはいかないという結論を出さざるを得なかった。
ということで会社を辞めて1年後、とりあえず電子書籍専門の会社を作ることに至ったわけである。
ま、これがいつまで続くのかはわからないけれども、とりあえず志だけは持ってやってみようと思っている。
以上がとりあえずリストラから1年後のご報告。
「志木電子書籍」誕生のことば水平社宣言の結語は「人間(じんかん)に光あれ」と読むという。
「じんかん」とは「人と人の間」、転じて「すべてのもの」。したがってこの結語には「すべてのものに平等に光が当たるように」という願いが込められている。
しかし、残念ながら水平社宣言から九十年近くたった今も、この願いは実現していない。
それどころか、大きな者、強い者が、小さな者、弱い者を支配していく構造は、第二次世界大戦を経て、より巧妙に強化された。
しかし、二十一世紀に入るとともに、この体制に綻びが見え始めている。その最大の原動力はインターネットの普及にある。
一人ひとりが自由に情報を発信する手段を持ち得たことで、マスメディアによる情報独占(それは同時に情報コントロールを意味していた)は崩壊し、さらにマスメディアよりも速く、かつ正確な情報を誰もが入手することが可能になりつつある。
二〇一一年三月十一日に起きた東日本大震災、それに続く東京電力福島第一原子力発電所の破局事故は、日本社会のありようを根底から変えてしまう不幸な出来事だった。
そんな中で唯一の光明は、多くの人びとがネットを通じて情報交換し、また連携し始めたことである。しかも、それは行政やメディアの思惑とはまったく異なるレベルで有効に機能し始めている。
志木電子書籍はネットを拠点に活動し、これまでマスメディアの“発表情報”の裏に隠されていた真実に光を当てていく。
かつ、それをいつでも、どこでも、どんな立場の人にも提供していくことで、小さいながらも「人間に光あれ」を目指す一員でありたい。二〇一一年七月八日
株式会社志木電子書籍
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