原発の破局的事故に防災計画は存在しない
原子力規制委員会が、福島第一原発事故並みの事故が起きた際の放射性物質の拡散を予測した地図を公表した。
「公的な機関が日本のすべての原発ごとに地図を伴う拡散予測を公表するのは初めて」(日経)とのことだが、原発が破局的事故を起こした場合の災害規模の計算を行った人は過去にもいる。
それは京都大学の小出裕章先生の元同僚で、熊取六人組の一人、故・瀬尾健氏だ。
瀬尾氏はこの計算結果を元にした著書を1995年に出版されている(実際に本が出たのは瀬尾氏の逝去後で、小出先生が再計算をしている部分もある)。
それが『原発事故…その時、あなたは!』(風媒社)という本で、同書の中では全国16の原発基地、さらにもんじゅや核燃料輸送中の事故についても計算が行われている。
以下の図は、同書に掲載されている大飯原発2号炉が破局事故を起こした際のシュミレーション図だ。
瀬尾氏は「●破局的事故に防災計画は存在しない」として、以下のように書く。
「チェルノブイリ事故以来、原発災害が周辺地域に限定されるものではないということが、広く認識されるようになった。つまり原発の問題は「地元」だけではすまないということである。「地元」がない、あるいは日本全土が「地元」だと言い換えてもいい。」
日経は、
「原子力規制委員会が24日、原子力発電所で深刻な事故が起こった場合の放射性物質の拡散を予測した地図を公表した。原発から40キロ離れていても避難が必要な被曝(ひばく)線量となる地域があり、一部の自治体は防災計画の練り直しを迫られる。規制委は原発の30キロ圏内の自治体に来年3月までに防災計画を作るよう求めるが、原発の再稼働にも大きく影響しそうだ。」
「規制委は原発の災害対策指針で避難対象地域を8~10キロ圏から30キロ圏に広げる方針を表明済み。逆に言えば「30キロ圏外ならば安心」との誤解もあったが、予測が冷水を浴びせた。」
などと書いているが、福島第一原発の破局事故から1年半の今日の状況を見れば、避難対象地域はそんなものでは到底すまないことは明らかである。
なにしろ日本の法律を厳密に守った場合、福島県のみならず、茨城、千葉、埼玉、東京にだって避難しなければならない地域はあるのだ(ただしそういう地域に住んでいる人びとは、すでに国家から見捨てられている)。
私は小出先生にお目にかかった時、「もし、先生のお子さんが3.11の時に関東にいたとしたら、どうおっしゃいましたか?」と訊いてみた。先生の答えは「(大阪へ)戻ってきなさいと言いました」だった。
いまメディアでは、原子力規制委員会の今回の放射性物質拡散予測の発表について、「原発再稼働に新たな壁」などと書いて騒いでいるが、そもそもこの発表自体がきわめてヌルいものであるとしかいいようがない。
瀬尾氏は『原発事故…その時、あなたは!』の中で、スリーマイル、チェルノブイリの2つの大事故からの教訓を以下のようにまとめている。
1 事故は思いがけないことから起こり、予想外の経過をたどる。
2 フェイルセーフ、フールルーフ(※)はあり得ない。
3 事故の際の現場担当者は、信じられないほど楽観的である。
4 事故の通報は遅れる。
5 関係者はあらおる手を尽くして事故を秘密にする。
6 事故の影響は過小評価される。
7 経済性のためには、少々の安全は犠牲にされる。
8 被害者は、因果関係がはっきりしないのをいいことに、切り捨てられる。
実際に、まだ収束のメドすらついていない福島第一原発の破局事故を目の前にしながら、30ギロ圏内、40キロ圏内の自治体の防災計画がどうのこうのと議論していること自体が私には理解不能である。
※フールセーフ : バカがでたらめな操作をしても大丈夫という意味
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