今さらながら、一川防衛相の問責について
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なぜテレビが問題なのか。テレビが現実を代行し、テレビだけが現実像であるという錯覚が広くいき渡ってしまったからである。
(中略)
これははなはだしく危険な状況である。現代社会は、テレビをはじめ新聞・雑誌など、総じてメディアを手段としない限り一片の情報も入手できない仕組みになっている。口コミや噂の比重は減じ、直接現実に接し取材するなどという態度そのものが消えた。しかし、人々は本当はメディアを手段にしているわけではない。逆にメディアの囚人になっている。メディアによる現実像を現実そのものと錯視することで、いいようにメディアに翻弄されている。わたしはこのような状況をメディア・ファシズムと呼ぶ。
岡庭昇著『テレビ帝国の教科書』(1985年)より
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すでに遅きに失した話だが、野田内閣の閣僚二人の問責決議案について。
正直、野田内閣がどうなろうと知ったことではないのだが、この二人の閣僚、なかでも一川防衛大臣に対する問責のニュースが妙に引っかかったので、ひとことコメントしておきたい。
今回の一川大臣問責についての野党の主張は、前沖縄防衛局長への監督責任、そして1995年の在沖米兵による少女暴行事件を「詳細には知らない」とした国会答弁、防衛相就任時の「私は安全保障の素人」発言、さらにこんなことはどうでもいいと思うが、ブータン国王夫妻歓迎の宮中晩餐会欠席などが主な理由だそうだ。これをして、国の安全保障を担う資格はないという。
要するに素人大臣だということだが、これをラジオのニュースで聞いて、私が瞬間的に思ったのは、この程度の大臣ならば自民党政権時代だって掃いて捨てるほどいただろうということだった。
組閣時に官邸に呼び込まれた議員がまずやることは、各省庁から早速、派遣された役人にレクチャーを受けることである。それでもトンチンカンなことを喋る大臣はままいたものだった(これは民主党政権でも同様だが)。
そんななかで、今回、「一川なんてあれに比べればぜんぜんマシだろう」と私が真っ先に頭に浮かべたのは、なんといっても法務大臣時代の鳩山邦夫だ。
なにしろこの人、大臣になって辞書を引くまで「冤罪」という言葉の意味を知らなかったというのである。しかも、そういう大臣が法務官僚の求めるがままに死刑を粛々と執行し続けた。
これぞ空恐ろしい素人大臣で、当時、私はこんなエントリーを書いたものだった。
その他にも「なんだこりゃ?」という大臣はいくらでもいたわけで、それに比べるて一川が格別、問題だとは私には思えない。部下とはいえ、官僚の監督責任でいちいち問責されていたら、大臣のクビなどいくらあっても足りないし、官僚は気に入らない大臣がいれば、生贄を一人差し出せばいいことになる。沖縄での少女暴行事件にしても、まったく知らないのであれば大問題だが、「詳細には知らない」というのは、ではどの程度が詳細なのかという話になる。
・田中良紹の「国会探検」
問責決議で始まる攻防
・朝日新聞 読後雑記帳
野党の尻馬に乗って防衛相更迭を迫る愚かな社説
要するにこの問責決議は野党としても「ためにする」という類のものでしかない。
ところが、テレビをつけた折に偶然やっていたニュースでは、相変わらずこの件についての世論調査をやって「一川大臣は辞任すべきが8割」などとやっている。そのメディアの惨状を見て、私はカクッときたのであった
(そういえば、東京電力についての世論は見たことがないことに、今気づいた)。
ちなみに、冒頭で紹介した岡庭昇氏の『テレビ帝国の教科書』には、こんなことも書いてある。
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諸君、受身の読者(視聴者)であることをただちに止めよ。
メディア・ファシズムの現状は、想像をこえて進行している。腐敗は深くわれわれ自身を囚えている。テレビのスキャンダルを無邪気に楽しんでいる間に、とりかえしのつかない事態が現出しているのだ。危機が深いほど、しばしば危機は自覚されないものである。そしてメディア・ファシズムとは、あらゆる危機意識を官能の次元において奪ってしまうゆえに真に危機であるようなネットワーク体制のことなのだ。
この危機にどっぷり身を浸し無自覚であるとき、あなたはとはりも直さずメディア・ファシズムの共犯者である。共犯者として人権侵害、冤罪者いじめ、利権かくし報道、差別的な感性の再生産に積極的に関わっている。そしていつかあなた自身、現実とイベント、スキャンダルとニセ・スキャンダル、情報と物語の区別がつかない関係になりおおせ、この退った鎖国ニッポンを理由もなしにバンバンザイするノー天気になるほかはないだろう。
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コメント
米国が空海統合戦構想
(中国を仮想敵国に)日本を「盾」と公言
アメリカ国防総省は11月、「統合エア・シー・バトル(ASB)構想」(空海統合戦争と呼ばれる)の概要を公表し、専門機構を設立してその具体化を進めるとした。ペンタゴンが、台頭する中国をアジア太平洋地域で唯一軍事面で米国と競合できる国とみなして、2009年に提起していた構想だ。オバマ大統領が10月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、「アジア回帰」を再度明言したことに対応したものだが、ASBの原案では日本は中国の前に立ちはだかる「盾」と規定されている。
日本、台湾、比国を犠牲に
「空海統合構想」は、国防系のシンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」が5年以上前から温めてきた構想であり、ペンタゴンが4年ごとに見直している国防政策(QDR)の2010年版で初めて盛り込まれ、注目された。
ASB構想によって、米軍に四つの変化が求められている。1.西太平洋全域で、海軍力を増強する、2.米艦船による日本からオーストラリアまでの活動をより頻繁におこなう、3.米軍艦船のベトナム、シンガポール、フィリピンなどへの寄港回数を増やして、日ごとに増加する中国の軍事行動をけん制する、4.機動性が高く、海と陸で戦える戦力・海兵隊の役割を増していく__ことである。
ASB構想の要点の一つめは、アジア全体で米軍機が使用できる基地を増やすことだ。先日公表されたオーストラリアでの基地確保は、その一例だ。二つめは、同構想が電子戦、サイバー戦及び米空軍機とミサイル、海軍の空母艦載機、海上発射ミサイルの共同作戦を強調していることだ。
中国を仮想敵とする構想は、国防費を向こう10年間に4500億ドルも削減する必要に迫られているなかで、アメリカが優位を占めるサイバー戦力、宇宙戦力及び新しい兵器システムを統合運用し、中国の「接近拒否」戦略に対抗しようとするものである。つまり、中国の海軍力や宇宙船力がまだ低い水準であるうちに、アメリカの強大な戦力を誇示して、中国に圧力をかけ、アジアでの覇権を維持する狙いだ。
もう一つは、アジアにおけるアメリカの同盟国に軍事力を増強させ、アメリカ本土を守る盾とすることだ。日本やオーストラリア、インドなどを動かして、潜在的な盟友や新興の盟友などをひとつに統合していけば、対中国の包囲網を絞ることができると見ている。それは、米主力戦力を日本、台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線から、日本、グアム、オーストラリアに至る第二列島線に移動していくこととセットである。
米国に付き従う野田政府
アメリカのシンクタンクCSBAは、「空海統合戦争は米軍単独で実践できる概念ではない」として、同盟国や友好国との連携が不可欠だと強調している。その最重要パートナーを日本としている。研究レポートは、具体的な連携相手として日本とオーストラリアを名指ししている。だが研究者は、中国にオーストラリアは遠すぎる、「韓国」は近すぎるとして、日本を本命とみなしている。
アメリカのある中国研究者は「日米安全保障条約こそ台頭する中国へのカウンターバランスだ」という。ASBを成功させるため、日本には1.国内基地施設の防護強化、2.滑走路の修復能力の向上、3.ミサイル防衛システムの米軍との統合促進__などが求められるが、最も重要なことは「日本が米国の側であり続けること」と強調した。
「対等な日米関係」「アジア重視」「普天間基地は県外へ」などと謳った鳩山内閣は、そうしてつぶされた。野田政府は「日米合意は守る」とバカの一つ覚えのようにくり返している。そして、沖縄防衛局長の暴言があった直後に、一川防衛大臣は年内に環境影響評価書を提出することに変わりないなどと、日本国沖縄県民を全くバカにした発言をした。大臣も局長も同じ穴のムジナで、沖縄県日本国民の利益、感情などどうでもよく、ただいかにアメリカのご機嫌を損ねないかにきゅうきゅうとする売国根性をさらけ出している。
(長周新聞2011年12月5日発行紙面記事をテキスト全文転載)
投稿: 通りがけ | 2011/12/14 11:34
人間社会は言葉で成り立っているわけですからこの指摘には誰しも注意が必要だと思われます。今の時代は情報網が張り巡らされている(世界津々浦々にまで)状態で社会が構成されていますから、メデイアの発信する言葉の意味は非常に重いものとなっていると思われます。そうであるにもかかわらず、その責務はあまりにもないがしろにされて、むしろ蹂躙されている状態だと思われます。言論の自由はむしろ責務をまっとうしたものによってのみ与えられた特権であると思います。
投稿: 匿名 | 2011/12/13 11:30
「米軍ショッカーの手下政権モドキが支配する国ニッポン」
総選挙を勝ち抜かずに総理になった者(今は野田)は、ショッカーの人間モドキみたいな「総理モドキ」にすぎません。
小泉も「総理モドキ」だったね。そのあと総選挙で勝ったとたん公約破り宣言したから、総理にはなったけど政治家失格人間失格してこんどは「人間モドキ」総理になった。
そのあと自民党は選挙なしの「総理モドキ」が3人続いて潰れ、民主党が選挙で勝って鳩山総理。彼は総理になったけど本人が人間以下の鳩の惑星の宇宙人だったからこれも「人間モドキ」総理。
その後の民主党の菅も野田も選挙を戦ってないからこいつらは「総理」じゃなくただの「日本人モドキ総理モドキ」にすぎない。その内閣はモドキを集めてできた内閣モドキであり、そのアメポチスパイ官憲ファッショ政治はアメリカ(軍隊狂犬)の強きにへつらい日本人主権者国民の全てを公権力乱用して搾取する、強きに諂い弱きをくじく破廉恥暴虐政治である。日本人としてよりも、そのまえにまず何よりも人として恥ずかしい米軍傀儡政府泥棒悪代官公務員とその職権乱用政治であることよ。
この国にモドキじゃない本当の内閣を作るためにはいまこそ解散総選挙が必要だ。
投稿: 通りがけ | 2011/12/13 10:26
12・15 私たちの声を防衛省と沖縄県知事に届けよう「日本人であることを示すには」
http://sacredplaces.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/1215-42e8.html
(腐れ親父の独り言さまより)
さて、沖縄県知事は日本人である限り日本の国土内で米軍属に隷従させられる地位協定を、維持するべきと考えているのかそれとも破棄すべきと考えているのか?
扶桑の島に生まれ育った日本人として子孫へ誇りをもって伝えるべきものはなにか?
日本国憲法か地位協定か?
両者は並存絶対不能である。
いまこそ全国の知事と国会議員と市町村首長に対して同じ二者択一の質問をしてみる必要がある。
投稿: 通りがけ | 2011/12/13 03:39
はじめまして。
>部下とはいえ、官僚の監督責任でいちいち問責されていたら、大臣のクビなどいくらあっても足りないし、官僚は気に入らない大臣がいれば、生贄を一人差し出せばいいことになる。
ご指摘の通りです。
宮中晩餐会の件は、先月の自衛隊演習に神経をとがらせている中国と、野田首相の訪問を控えたインドのどちらにも気を配らなくてはいけない小国ブータンの立場を十分に配慮した上で、あえて欠席したとすれば、一川(野田?)は防衛相として十分、賢いと考えざるを得ません。
一川の地元の石川県小松基地では、訓練中の戦闘機の部品落下が妙に取りざたされていて、タイミングが合いすぎるようです。
投稿: 六歌仙 | 2011/12/12 21:53
「放射能汚染土壌で農業をすることとは・・」院長の独り言さまのコメント欄から転載
http://onodekita.sblo.jp/article/51751147.html#comment
>「生活がかかってるから」と汚染米や汚染野菜を作って売る福島農家は
「商売にならない」と福島野菜を置かなくなった八百屋や
「内部被曝が怖い」と買わない消費者を非難するのだろうか?<
これは農家が補償を受けるためには作物を収穫してみて汚染被害があったかどうかが確定しないと補償額が決定できないという事情から、必要経費をかけてとりあえずつくらないことにはかかった費用(損害)に対する補償も受け取れないということで、農家としての生活補償の必要上作ったものでしょう。
汚染が判明したら枝野官房長官が発表した避難区域外の農作物水産物工業製品にいたるまですべて東電が市価で買取補償しなければなりません。
東電の原発が放射能の汚染源であることは100%間違いない事実ですから。もちろん風評被害も東電が補償しなければなりませんね。
311冷却機能停止→その日のうちにメルトダウン(炉心熔融)した時点で東電はフクシマ原発周辺半径20km人類総員退避警報を発令しなければならなかったですね。
東電の所長は分かっていたはずです。311当日東電社員家族にだけ緊急避難情報を流した発信源は誰だったのかですが、現場の最高責任者所長の単独判断に基づくことは、その東電社員全員緊急避難が完了した効果のほどから見て間違いない所でしょう。
東電に312爆発で放射能大量拡散の損害賠償責任の大半が帰することになるでしょう。9ヶ月前のこの日に東電の破綻破産会社整理は確定したのです。
投稿: 通りがけ | 2011/12/12 19:06