電子書籍 新刊案内 〜『光文社争議団』
このたび、志木電子書籍では、『光文社争議団』を発売した。
・光文社争議団 ~ 出版帝国の“無頼派”たち、2414日の記録
これは、私が昨年まで25年間勤務していた光文社で1970年に起きた労働争議の記録である。
解決までに6年半を要したこの争議は、かつての出版界ではちょっと知られた大争議だった。
私が光文社に入社したのは、争議終了から十年ほどしてからであったが、しかし当時はまだなんとなくその余韻が残っていた。
もっとも、それを私が感じることができたのは、配属先がカッパ・ブックスだったことも大きいかもしれない。光文社には第一組合(争議を起こした元々の組合)と争議時に分裂した第二組合(当然、労使協調)があり、カッパ・ブックスグループには、第一組合の人も少なからずいたからだ。
春闘になれば第一組合はそれなりの活動をして、役員室の前で座り込みをしたり、社内には組合のビラがペタペタと貼られていた。
しかし、組合員が高齢化し、定年者が続出するとともにその勢いは衰えていった。
一方、第二組合の執行委員長や書記長ポストは、出世コースを意味していた(もちろん全員が全員ではないが)。
たとえば、ある年の春闘のこと。執行委員会から妥結提案が出て、それに対する反対意見がいくつか出ると、執行委員長は「会社側の代弁をするわけではありませんが、、、」と前置きをして、えんえんと会社側の代弁をした。その委員長は、やがて総務部長(非組合員)になり役員となった……。
もちろん、だから悪いというわけではない。会社の経営がいい時代はそれで問題はなかった。
しかし、会社の経営がおかしくなりはじめた時、やはりその歪みが出てきた。
1970年の争議の原因は、当時の社長・神吉(かんき)晴夫(カッパ・ブックスの創刊者)のワンマン経営にあった。そして、それから四十年後に起きた経営危機の際も、やはり一人のワンマン経営者がいた。そのワンマン経営者は、第二組合誕生時の執行委員に名を連ねている人だった。
1970年当時、組合はワンマン経営者の経営責任を徹底的に追及し、退陣要求を突き付けた。それが原因のすべてではないが、結果として社長のみならず役員全員が退任した。
四十年後、御用組合と言われた第二組合の組合大会で、やはりワンマン経営者(当時は会長だった)に対して退陣を要求するべきだという声が上がり、議論の末に採決され、可決された(細かい経緯は忘れたが)。この時の第二組合は、かつての御用組合とは異なり、そこそこ真っ当な労働組合であった。つまりそれだけ組合員の危機感が強かったわけだが、しかし、それでも結果として会長以下の経営陣の経営責任はついに追及しきれないままにリストラだけが行なわれた。彼らは逃げ切ってしまったのである。
残念なことに、四十年を経て、労働側は連勝することができなかった。
『光文社争議団』に話を戻すと、この本はいろいろな読み方ができると思う。
たとえば、昨年、出版界の話題をさらった、たぬきち氏の「リストラなう!」の前史としても読める。出版業界やそれをとりまく書店、取次、印刷会社、そして広告業界の方にとっては、光文社という会社の興味深い一つの歴史を知ることになるだろう。ひょっとすると、本文中に知っている人の名前をいくつか発見するかもしれない。
以上は業界的な読み方だが、しかし本書にはもう一つの読み方があると思う。
光文社争議において、会社は親会社である総資本=講談社の命令一下、警察、暴力団と一体になって労働者に襲いかかってきた。多くの血が流され、不当逮捕者も続出した。こうした厳しい弾圧の末、それでも闘い続けた先に勝利はあった(支援労働者との連帯も重要なポイントになった)。
いま、日本では東京電力福島第一原発の事故がますます深刻化しているにもかかわらず、霞が関、電力会社を中心とした財界、政治、マスメディアの連合体は国民に対してウソをつきまくって国民を弾圧している。しかし、この暴挙を許していては、断じて日本に復興はない。では、この巨大な敵にどのように闘い挑むのか。
本書にはそのヒントがあると思うのである。
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