ドキュメント出版社 その8
週刊宝石休刊(5)
前エントリーについて誤解なきよう付け加えておくと、私は「JJだってダメな雑誌じゃないか」といっているわけではない。JJは販売収入的にも広告収入的にも超がつくほど第一級の雑誌であって、それは光文社の収益、そして従業員の給与体系の向上にも莫大な貢献をした。
ただ、所詮は大衆誌だったと私は思うのである。
そもそも光文社というのは書籍ではカッパ・ブックス、カッパ・ノベルス、週刊誌では女性自身が原点にあることからもわかるように、非常に大衆に根差した本や雑誌を作ることが得意で、またそのための独特のノウハウを持った会社だった。
しかし、私が見るところ並河氏にはそれが我慢ならなかったようで、だからたとえば氏の時代には光文社新書が創刊される一方、ダサくて大衆的なカッパ・ブックスは消滅させられてしまった。
かつて日産自動車は北米市場において「DATSUN」というブランド名でフェアレディを売りに売った。ところがその「DATSUN」をある時から「NISSAN」に変えてしまう。それとともに日産は北米で苦戦に転じてしまうのだが、これについてアメリカの著名な自動車アナリストであるマリアン・ケラー女史は「なぜあれだけのステータスを確立したDATSUNをやめてNISSANにしたのか、その理由がわからない。これだけで何億ドルかの損だった」と語ったという。
その話を見聞していた私はカッパ・ブックスのブランドがなくなった時、会社の先人たちが長年にわたって築き上げてきたブランドをいとも簡単に捨てたことは、目には見えない、数字には表れないけれども莫大な損失なのではないかと思ったものだった(光文社新書の創刊が間違いだったというのではない。カッパ・ブックスをやめる必要はなかったというだけで、これについてはいずれ稿を改めて述べる)。
話が相当に脱線してしまったので週刊宝石のことに戻そう。
2000年10月19日に行われた並河氏が出席しての全体会議は、その後、各部員が一人一人名前を名乗って個人的な意見を言わされたと記憶している。
この時に自分がどんな発言をしたかは記憶がなく、また他の部員が喋った内容もメモされていない。
したがって、この会議については実はこれ以上に書くことはないのだが、ただ一つ明らかなことは、これまで鈴木取締役や金藤編集長を通じてしか知ることのできなかった並河氏の考えを編集部員が直に聞いたことだった。
この会議が行われた週は2週合併号を作っており、翌週から1週間、編集部は休みに入ることになっていた。最終校了は23日の月曜日だったが、これは一番締切が遅い活版のニュース班で、それより進行の早い班は自分たちの担当する折が校了になるとともに休んでいく(活版の週刊誌というのは、折によって校了日が異なり、基本的に外側の活版ページが一番遅い)。
当時の手帳を見ると、並河氏出席の会議が行われた翌20日金曜日の午後、再び全体会議が行われ、それに続いてデスク会議が行われている。これまた詳細なメモもなければ記憶もないのだが、この会議は前日の会議を受けて再び全部員が意見交換をしたことは想像に難くない。
その後、編集部は休みに入ったのだが、明けて11月1日にデスク会議が行われている。これは定例のものだったと思うが、その時のメモには「10/23の役員会で週刊宝石問題が話し合われ、継続か?リニューアルか?が議論されたが後者の方が強い」と書いてある。
これは鈴木取締役の報告だろう。「リニューアル派の方が強い」と書いてあるが、就任したばかりの、それもただ一人代表権を持った社長がリニューアルを強硬に主張しているのだから、それに反対するにはかなりの勇気が必要なはずで、おそらく現状維持派は実質的に鈴木氏一人、あといるとすればあくまで想像だが、女性自身の担当役員ぐらいだったのではないかと思う。
そして11月3日、文化の日の午後に行われたデスク会議で金藤編集長から並河氏に提示する週刊宝石の今後の方針案が示された。
それによれば版型は現行のままで変更はしない。表紙のデザインや企画の柱は抜本的に変更する。読者の対象をもう一度見直しつつ、発売日の変更も検討するというようなものだった。ただしこれは期限付きとして、もしこれが成功しなかった場合は全面リニューアルをするという、言ってみれば二段階改革案である。
この時の会議の際であったかどうかはわからないが、私は金藤編集長が「女性自身の失敗を考えると全面リニューアルをするのはこわい」と言ったのが今でも耳に残っている。
そう、確かに全面リニューアルはこわい。減ったとはいえ30万人近くはいた読者を一気に失う可能性がある。かといって、週刊ポスト、週刊現代には水をあけられ、しかも週刊大衆に実売部数で抜かれてしまった(実はこれが相当に大きな問題だった)現状を考えると、表紙や企画の見直しだけで読者を再び増やすことができるのかどうか、、、正直なところ私にはよくわからなかった。
ただ、ある意味で編集部にとっては虫のいい「とりあえず現状の形の中での見直し→ダメだったら版型、紙質も含めた抜本的な見直し」という提案を、果たしてあの並河社長が受け入れるのだろうか?という点についてはきわめて疑問だった。
つづく
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