ドキュメント出版社 その10
週刊宝石休刊(7)
後年、広告営業に転じてから、ある大手広告代理店の雑誌局長と席を同じくする機会があった。私がとりあえず挨拶がてら自分の社内での経歴を話すと、この局長は週刊宝石に関して自分が手がけた広告の話を楽しげにしてくれたあと、「それにしてももったいなかったな、週刊宝石は、、、」とつぶやいた。
確かに当時の週刊宝石は部数の落ちがなかなか止まらず社内では問題になっていたが、しかし今から考えるとまだまだ相当に余力のある時点での休刊決定で、もちろん私ももったいなかったと考える一人である。
一方、2001年1月(日付がわからない)の東京新聞に「『週刊宝石』休刊は“攻め”の作戦立て直し 復活後は“脱風俗色”も」と題して掲載されたインタビュー記事で、並河氏はこんなことを言っている。
「『週刊宝石』も〈処女探し〉とか〈オッパイ見せて〉という企画がよかったといわれるけど、それはあの時代が良かった。ヘアヌードが時代にモノを言えた時はありました。ゲリラとして体制に反するものとして。今は何も意味がない。うちが水面下に潜るのが早かっただけで、ヨソの週刊誌も同じですよ」
現在、男性週刊誌はとくに広告面から見ると厳しい状況にある。
しかし一方で新聞、テレビといった記者クラブメディアが壊滅的状況にある今、週刊誌のメディアとしての重要性は上がっていると思うし、実際、昨年から今年にかけて週刊文春、週刊新潮、週刊現代、週刊ポストの部数はいずれも好調に推移しており、とくに週刊現代は部数を10万部も上げている。あるいは週刊ポストが続けている官房機密費追及は記者クラブメディアでは絶対にできない価値あるキャンペーンだ。
私は全体として紙媒体は厳しい状況に追い込まれていくと見ているが、この男性週刊誌の健闘を見るとまだまだやりようはあるし、なによりも週刊宝石が休刊になったのはまだまだ雑誌広告の状況が良かった十年前のことであることを考えると、休刊よりも他にもう少しやりようはあったと思う。
ただ、それはそれとして並河氏がこの時点で週刊宝石の休刊を決めて新たな媒体を模索したことについて、その判断には正当性がある。なにしろ最高経営者が下した経営判断なのだから。
ただしこの経営判断は当然ながら経営責任を伴うもので、したがってこの判断が間違いであった場合は相応の責任が生じることは当たり前のことだ。その意味では週刊宝石休刊とその後に並河氏の強力な主導の下で誕生した新雑誌(「DIAS」)はセットで考えなくてはならないわけだが、この点についての私の考えはもう少し後に述べる。
さて話を2000年の時点に戻すと、、、
新たに設置された新雑誌開発室には週刊宝石編集部からも2人の部員が異動した。
残された者は横田氏が言ったように「粛々と」週刊宝石を終わらせなければならなかったわけだが、とくに難しかったのは記者、カメラマン、デザイナーといった外部スタッフへの対応であった。
これも後で述べようと思っているが、雑誌というのは外部スタッフがいないと成り立たない。とくに週刊誌はその人数が多く、また依存率が高い。逆に言うと社員編集者の仕事というのはそのスタッフを動かすことで、一歩間違うとそれだけになってしまうこともある。私のような書籍出身者にとってこれは不思議なシステムに見えた。
その外部スタッフは1号あたりの原稿料が基本となっているので、新雑誌に移るにしても週刊宝石休刊から新雑誌創刊までの期間は無収入ということになってしまう。しかも全員が新雑誌へと移行できるわけではない。
12月20日のデスク会議ではそのスタッフについて、さらに最終号へ向けての内容について、連載についてという3点が話し合われている。
このうちスタッフについては、この翌日の21日に説明会を行うことになっており、そこで提示される条件がメモとして残っている。その内容は、雑誌の休止期間中(4カ月)についてはスタッフ全員の拘束料を保証し、その後のことはリニューアル誌の準備の段階で話をして新たに契約書を交わす。新雑誌へ移らなかったスタッフについては、さらに2カ月の拘束料を払うというものであった。
そして12月21日の午後、スタッフに対する説明会が行われた。これは編集部員の同席も許可されていたので、私も会議室の後部座席からこの説明会の行方を見守った。
今でも思い出すのだが、この時の金藤健治編集長の態度は立派だった。スタッフのみなさんへの配慮を十分にしつつも、会社として言えることと言えないことの区別をきちんとしてブレることがない。これに限らず、週刊宝石の幕引きがそれなりに上手くいった最大の理由は金藤編集長の手腕によるところが大きいと私は思う。
とはいえこれはやはり大変な仕事で、後にご自身の定年退職のパーティの席上、金藤氏は「週刊宝石の休刊は修羅場だった」と述懐されたものだった。
つづく
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コメント
毎回ドキドキしながら読んでいます。出版を仕事にしている人間として非常に興味深いです。出版界の貴重な歴史の証言ですね!
投稿: | 2010/08/18 07:59