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2010/06/15

雑誌広告クライシス

今日は近くのコンビニと書店を回り、月曜、火曜発売の週刊誌を立ち読みしてみた。
といっても私が見ているのは広告だけだ。
男性週刊誌を中心に見たのだが、5、6冊を見たなかでまともにセールスが成立しているナと思う広告は数えるほどしかなく、私の印象では各媒体とも広告予算は数百万円といったところだと思われる。
これが数年前であれば、毎週、1,000万円を軽く超える(というかそれ以上)広告収入があった媒体はザラにあった。ということはどの媒体も広告収入はおそらく半減しているはずで、さらに発行部数、実売数とも全体的に右肩下がりの状況のなかで、そろそろ立ち行かなくなってくる媒体も出てくることが予想される(ただし週刊現代だけはこの1年で実売数が10万部近く上昇するという奇跡の復活を遂げた)。
なにしろ週刊誌というのは毎週発行しているわけだから、いったん赤字体質になるとその赤字は雪ダルマ式に増えることになる。ここが週刊誌のつらいところである。

ところで、、、
ここ最近、編集をやっていた時代の仲間と話す機会が何度かあったのだが、その折につくづく思うのは、私の所属していた会社に限らず編集の人というのは広告のことを本当に知らないんだナということだ。
たとえば、この春から雑誌媒体にとっては第一級のクライアントである会社が、雑誌広告に対する考え方を根本的に変えるというエポックメーキングな出来事があった。ところがこのことを知っている編集者は少ない。
どういうことかというと、これまでこのクライアントは年間を通じて各媒体の特殊面(表2や表4といった雑誌広告の中でもとくに価値が高いとされるスペース)をキープしていた。
たとえばA誌の4月売りの表2見開きはそのクライアントの広告出稿実績が毎年あれば、その枠はクライアント枠ということで確定していたのである。したがって各社の広告営業は、新しい年度が始まる前にその実績枠がきちんと守られるかどうかの確認が重要な仕事であったが、しかしいったん守られることがとわかれば、あとはその実績枠のセールスについて心配することはなかった。そして、このクライアントはそういう枠をたくさん持っていた。
ところが今年度からそういう宣伝戦略をやめてしまったのである。
そして、これからは自社の商品キャンペーンの時期にあわせて都度都度で広告を出していくという方針に切り替えてしまった。
これは媒体社にとっては大変な衝撃である。なにしろ、これまでは実績枠の確認ができれば、あとはきちんとした広告収入をそのクライアントから得ることができる。そういう媒体がいくつかあれば、ベースとなる安定した広告収入を計算できるわけで、雑誌業界は長年、こういう慣習の中で動いてきた(もちろん広告代理店も)。
しかし、その実績枠がなくなってしまえば計算が立たなくなる上、新たな広告主を探さなければならない。ところが雑誌広告の価値そのものが下がり始めているなかで、同じレベルの広告出稿をしてくれる新たなクライアントを探すのは至難の業である。

もちろん、このクライアントが雑誌広告をすべてやめるといっているわけではない。
ところが、、、
このクライアントの要求はそれだけではなかった。広告を出稿する場合、単に雑誌本体に広告原稿を掲載するだけでなく、自社やあるいは媒体のWebページ、イベントとリンクして、より広がりを持った(広告的には「立体的」という言葉がよく使われる)宣伝戦略をとっていくというのだ。
つまり雑誌広告単体での有用性を、もはやこのクライアントは評価していないのである。その証拠にこの通達をするにあたっては、雑誌広告の効果検証についても触れられていた。
一方、媒体社としてはWebサイトの重要性は頭ではわかっていても各社によって対応はマチマチである。取組が進んでいる会社もあれば遅れている会社もある。遅れている会社の場合、ここへきて大不況の影響もあってドカンと大きく投資をすることができない。しかも、雑誌コンテンツをWebへ転用するとなるとモデルやカメラマン、デザイナーなど、さまざまなところから二次使用料を請求される。
結果として今春、このクライアントはWebへの取組が進んでいるある媒体社に大きな宣伝予算を投下した。

と、こうした流れを見ると、これから雑誌広告離れはますます進んでいくだろう。
なにしろ第一級のクライアントがこういう行動をとれば、ただでさえ深刻な雑誌離れにさらなるドライブがかかることは想像に難くない。
こうしたなかで各媒体社の勝負を分けるのは、Webに対する投資額とその進捗度だろう。雑誌としてどんなにいい媒体を持っていても、Webに対する投資が遅れてしまえばその媒体の価値は半減する。一方で、雑誌としては今一つでもWebサイトをうまく構築できれば広告収入を上げられる可能性はある(ただし週刊誌という媒体は週刊現代のようにたとえ部数を上げても相当に苦しいと思う)。
ここ最近の雑誌広告の状況を見ると、その優勝劣敗はそう遠くないうちに鮮明になると思う。

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