取り込まれる人びと
かつて日曜午後のTBSラジオは黄金の時間だった。
「伊集院光 日曜日の秘密基地」(2000年10月8日から2008年3月30日。それ以前の2年間は「伊集院光 日曜大将軍)という番組は、どんなに誉めても誉め足りないぐらい素晴らしい番組で、13時から17時までの4時間、まさに聴き逃すことができなかった。
私がラジオをパソコン録音しようと思ったそもそもの動機もこの番組にある。
日曜日の午後というのは、クルマに乗って聴いていることが多かったわけだが、目的地に到着するとクルマを降りなければならない。そうなると、「この続きはいったいどうなったんだろう?」といつも思う。しまいにはどうしても最後まで聴きたくなり、それから録音をするようになった。
ある時、この番組をスポンサードしていた企業の宣伝部の方と話す機会があったので、早速、番組に話を振ってみると、「とにかく聴取率表を見ると、伊集院さんの番組って突出しているんですよね。すごい数字なんです」と言っていたものだった。
が、残念なことにこの番組は2008年3月で終了してしまった。が、私は今でも時々、この番組の録音ファイルを聴いてみることがある。それぐらい惜しい番組だった。
さて、この後番組を受け継いだのが「爆笑問題の日曜サンデー」である。スタート当初は何回か録音してみたが、秘密基地とはその面白さが比較にならず、あっさりと録音も、またクルマの中でもあまり聴くことはなくなってしまった(ちょうど不景気の時期に入り、日曜日といえどもあまりクルマに乗らなくなったということもあったが)。それでもスペシャルウィーク(聴取率調査週間)の内容はなかなかに面白く、最近はこの時期だけ時々録音して聴いていただけだったのだが、、、
先日の日曜日は偶然、13時過ぎにクルマに乗ったため、日曜サンデーを聴いてみた(というより私のクルマは基本的にエンジンがかかるとTBSラジオが流れるのである)。
この番組の最初のコーナーは「ラジオ サンデージャポン」という時事を扱う、つまり午前中に爆笑問題がテレビでやっているサンデージャポンの延長戦上のコーナーである。
私はここを途中から聴き始めたわけだが、その内容がすごい。まあ、とにかく爆笑問題、そしてアシスタントの外山恵理、そしてニュース解説をする人物の4人で鳩山由紀夫を罵倒しまくるのである。私は数キロもクルマを走らせないうちに腹が立ってきてクルマを道路の脇に停め、ツイッターで「クルマの運転中だったがあまりにもムカついたからクルマを停めた。爆笑問題と外山恵里の日曜サンデー、聴くに耐えない。一刻も早く伊集院に戻せ!」とつぶやいた。
さらに、三宅雪子議員については「いつギプスを外すか難しいですね」などとせせら笑い(私はこの三宅議員の問題については、押し倒した方を擁護して、押し倒された方を罵倒する報道に、恐ろしささえ感じる)、谷亮子の民主党からの参議院出馬については罵倒。その一方で、自民党から出馬する三原順子については「相当に勉強しているらしいですよ。そういう人もいるんだから、票集めのために出馬する人と一緒にしてはかわいそう」などと太田光が言うと、田中裕二は「東国原知事も勉強してましたよねー」などとアホ発言。
この空気を、前日、大橋巨泉から「日本一の女子アナ」などとおだてられた外山恵理が、うまく民主党罵倒の部分ではせせら笑いを入れてサポートする始末である(外山恵理も永六輔の介護をやっている時にはいいが、時事ネタでは相当な民主叩きを平然と入れてくる。そういうテクニックがあるという意味では、確かに日本一の女子アナかもしれない)。
私はラジオのダイヤルを文化放送に切り替えた。
そうしてクルマを運転しながら、どうして爆笑問題はこんなになってしまったのだろうと思った。
昔はそれほど嫌いではなかった、むしろ好きだったのに、、、
実は、この爆笑問題のように「最初はいいナ」と思っていたが、あっという間に転んでしまった人というのは他にもいる。
テリー伊藤もその一人である。
私はテリー伊藤が書いた「お笑い大蔵省極秘情報」という本を読んだ時に驚いた。この本に登場する大蔵官僚の、まあなんと傲慢なことか。当時から私は日本は霞が関の官僚による独裁国家だと思っていたが、その中でもトップに位置する大蔵官僚の本音が見事なまでに引き出されている。
これまで、目を皿のようにして新聞を読んでいたとしても、あるいは必死になってテレビやラジオのニュースを聴いていたとしても、大蔵官僚というのがここまで傲慢であることを教えてくれるものはなかった。
この本が出版されたのは1990年代の中ごろだったと思う。当時はまだパソコン通信の時代だったが、私は参加していたフォーラムの会議室(掲示板のようなもの)に、「これが本当のジャーナリズムじゃないかな」と書き込んだことを今でも覚えている。
ところが、テリー伊藤もその後、どんどんおかしな方向へ進み、爆笑問題と並ぶ自民擁護、民主罵倒の急先鋒となった。
さらにもう一人。小林よしのりについても前二者と同様のことを感じるのである。
「週刊SPA!」が「週刊サンケイ」から衣替えをし、小林よしのりのゴーマニズム宣言が連載され始めた当初、私はこの漫画を高く評価して毎週、楽しみにしていた。漫画家の立場から権力の本質を見抜き、最後にゴーマンをかまして落とすというスタイルは新たな権力批判の手法だナとさえ思った。
また、SPA!では不掲載になったという雅子妃結婚の際のゴーマニズム宣言を読んだ時は、これは平成の時代の風流夢譚ではないかと思ったりもした。
ところが、この小林もその後、急速に右傾化していく。
当時、私がこの過程を見ていて思ったのは、小林よしのりはゴーマニズム宣言を比較的軽い気持ちで始めたのではないかということだった。さほど思想的に深いわけでもなく、なんとなく自分の思っていたことをそのまま漫画にしたのではないか、と。ところが、これが意外にもウケた。
一方、この漫画の影響力に危険な匂い、危ない芽を感じた人々がいた。それが、ものすごく大雑把に言うと「権力」だったのではないかと思う。私の想像では、彼らは「これはなんとかしないといけないナ」と考えた。そうして権力に付随するメディアが総力をあげて小林よしのりを取り込んだ。これに対して小林はもともと深い思想があったわけではないので、簡単に取り込まれてしまった、、、というのが私の見方である。
そうして、これはテリー伊藤や爆笑問題にも共通しているのではないかと思う。
もともとマスメディアに属する連中は、権力からすればいかようにでもコントロールできる(現在、メディアに登場する記者連中を見れば一目瞭然)。しかし、時々、そのコントロールの及ばないところから意外に権力の急所を突いてくる人物が出てくることがある。
日本の権力=霞が関というのは、とにかく国民を、そして世の中を自分たちの目の届く範囲の中で思い通りにコントロールすることだけを常に考えている。彼らにとって想定外の出来事が起きることは悪なのである。したがって、自分たちの頭の中で描いているシュミレーションを壊すような危ない芽はとにかく摘んでおく。それだけでなく、自分たちの側に引き込んで、逆にそのキャラクターを最大限利用してコントローラーの一部として利用しようとする。
そうして取り込まれたのが、爆笑問題、テリー伊藤、小林よしのり(他にもたくさんいるが)、、、といった面々なのだと思う。
しかし、権力にとって新たな不確定要素が登場した。それがネットであり、そこで繰り広げられるWeb言論だ。これについては、もはや制御のしようがない。しかもドンドン増殖している。
何もかもコントロールしたい権力にとって、これほど腹立たしいことはないはずだが、とにかくどうしたらいいかわからない。
仕方がないので、現在は自分たちの手の内にあるマスメディアや御用文化人といった国民コントロール装置のボリュームを最大限まで上げて、増殖するWebに対抗しているということなのだと思う。
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コメント
自民政権時代は爆笑太田も自民に噛み付いてたし。マスコミなんて麻生の高級バー通いを庶民感覚が無いだの、安倍の時は大臣の顔の絆創膏までネチネチネチネチ「ホードウ」して、あからさまに寄って集って自民を引きずり落として民主に政権交代させようとやってただろう。鳩山が”高級バー通い”のモラル問題どころじゃない、故人献金の不正や毎月1500万の小遣い貰って脱税して罪を犯してたというのに、今現在ものうのうと首相の座に留まれてる事からしてもマスコミは民主に甘々。
民主支持者がそれまで自分達が与党側に行った言動を忘れて、今度は与党になった自分側が同じ事をやられたら「おかしい・異様だ」だのとは片腹痛い。
投稿: 鼻かみ王子 | 2010/05/29 04:10
平野貞夫元参議院議員の機密費発言を検索してて、このサイトに辿り着きました。<日曜日の秘密基地>はMDで録音して、特にゲストを迎えてのインタビューのコーナーは何度も聴き返しました。突然に終了が発表された時は本当に残念でした。あと番組が爆問になり、やはりこのクラスじゃないと引き継ぎは出来ないんだ、と感心しました。最初は伊集院光に悪いと思いながら(笑)、そこそこ楽しく聞いていましたが、近頃では聴くのを止めました。天才とか言われてた大田が近頃へんです。ひさしぶりに秘密基地の話題を見つけ、嬉しくなってコメントさせていただきました。
投稿: shin | 2010/05/25 20:29
外山恵利アナは自分で言った事をさも面白い事を言ったかのように自分だけで笑う
投稿: | 2010/05/23 18:52
小林信彦氏の「本音のコラム」で外山アナに触れていますね。(名前は出していませんが)取り上げられていた東京新聞の投書にはその後、算同と反論が共に掲載されました。その中に「日曜天国でのコメントは的確」というような意見があり、感じ方は人それぞれだなと・・当然のことですが、う~ん・・・。
中村尚登アナもニュースデスクを名乗る以上あまり軽すぎるのはどうかなと思うのです。
太田氏が連載しているTVブロスのエッセイを長年読んでいますが、2007年に入って少し経ってから明らかに作風が変化しました。「アレ?」と思いながらもまた以前のようにストレートな物言いになるかと思っていましたが、そのまま今に至っています。9.11以降~イラク戦争や郵政選挙などに関するマスコミの報道姿勢を鋭く批判していましたが、今ではすっかり影を潜めました。
あるある大事典の納豆ダイエット捏造問題が大きな社会問題になったことについて、自分の予想以上に深刻な事態になったと言い、「私の把握のできなさがマヒであるならその延長線上で私が同じ事件をおこす可能性があることになる。」「『情報がつくるバラエティ番組』のようなあるいは『バラエティ番組がつくる報道番組』をやっている自分はテレビという媒体の公共性、倫理観、責任という概念についてハッキリとした基準を把握していることを要求されている立場にあるのではないか。ふと考えた時にその私がボンヤリして曖昧であることに恐ろしくなる」「テレビ関係者や大食品メーカーがどう決着をつけるのかが、業界全体の質を一流で保つか、レベルを落とすかの分水嶺になる」などとその当時は記していましたけれど・・・。このエッセイの後から雰囲気が変わったように記憶しています。
投稿: Linus | 2010/05/21 06:14
はじめてコメントします。いつも拝見していました。私は競馬blogをやっていますが、競馬の無い平日の合間に政治問題を競馬愛好家向けに情報拡散のつもりで展開しています(笑)
要はプロ向けではなく素人向けに、つーことですが(笑)
それにしても、今回の爆笑問題、テリー伊藤、小林よしのりの件については、全くの同感です。わたしも昔は爆笑問題や小林よしのりは好きだったんですが、最近はまさにおっしゃるとおりですね。
所詮、腐敗したメディアの上で生き延びていくにはやむなしなのかもしれませんが、極めて悲しいものですね。
応援しています。これからも鋭い情報拡散よろしくお願いします。
投稿: まるふ | 2010/05/20 23:29
最近はテレビが面白くないので、家にいるときはラジオを聴くことが多い。
ラジオは学生時代からTBSがお気に入りで、深夜放送の中島みゆき・レモンちゃん等を聞くとき以外は、ずっとTBSだった。
この傾向は社会人になっても変わらず、TBS御用達だったのだが、ここ2,3年耐えられなくなってきた。
伊集院、ストリーム、アクセス、コサキン、若山源蔵、そしてOTTAVAまでもがエンドを迎えた。
そして、その後番組がひどすぎる。
TBSテレビはもうどうしようもないが、ラジオはかろうじて残っていた。
しかし、それも過去のものとなった。
今やまともに聞けるのは、久米宏くらいか。
永六輔の歯切れのいい声がまた聞きたい。
それにしても、爆笑問題はどうしてしまったのか。
以前の反体制むき出しの大田はおもしろかった。
敢えて議論を持ちかける。
しかもその議論が的をついていた。
しかし、今は・・・
機密費でももらっていたのか?
所詮、電波芸人か。
嫁さんが怪しいが。
電通・某プロダクションの力はそれ程に大きいのかも・・・
無いものねだりをしてもしょうがないが、
今、「筑紫哲也」氏、「小田実」氏がいないことが残念でならない。
投稿: papert | 2010/05/20 04:06
官房機密費で取り込まれた人物の中にタレントの名がありますが非現実的です。芸能人の場合、スポンサーマネーがその代わりを果たすのですから。テリー伊藤あたりは、郵政民営化の際、しっかり「公共事業」を受注していましたよね。爆笑問題もドコモのCMに出ていますよね。それも政権交代の後くらいから。言うまでもなく、NTTグループは元官営。今だに天下りがうようよいます。こんな会社が“護憲派”で売る太田に高額のギャラを払うこと自体……。これ以上は言えません。
投稿: | 2010/05/20 01:02
伊集院終了と爆笑開始前後の感じ方が全く同じなので笑ってしまいましたというよりよーく理解できました。ここにも同じこと考えていた人がいたな、と。
TBSもラジオはちょっと自由な傾向があったのですが、ここ数カ月文化放送の大竹まことも含めて電通やら時事通信に乗っ取られたような気がします。
所、タモリなど政治に距離を置く連中が本当にまともに見えます。最近伊集院の番組というのは聞いていないので直近の動向はわかりませんが。
投稿: 雄一郎 | 2010/05/19 20:34
小林よしのり氏や彼をヨイショし続けたSAPIOには、愕然とさせられ続けました。
中国、韓国、北朝鮮を激しく非難するくせに、
それ以上の悪事に実際に手を染めているというか、世界で一番人を殺しまくっているアメリカには、ノーコメント。
対中国折衝でまともな交渉もできず、失態続きのわが国外務省・政治家には「国賊」の一言もなし。
中国が密かに勉強する究極の「なんちゃって民主主義」のわが国の政治体制の問題には、触れずじまい…
SAPIOやWillは、一部の権力者達のプロパガンダ媒体としか思えません。
それにしても、他国民への反感を煽るような、下賎なやり方だけは絶対に許せません。
冷戦が終わり、世界がかつてなかったほど繋がり付きを深めている中で、
いま我々が抱えている重要な課題の大半は、周辺諸国との協力なしには解決は有り得ません。
国家間の関係を緊張させて喜ぶのは、一部の軍人と死の商人だけって、歴史が見事に証明しているはずですが。
投稿: 悪代官 | 2010/05/19 16:36
当時の小林の転向は本当に残念でした。薬害エイズの闘争で「個の連帯」を唱えながらも失望した結果「より大きな物語」を求めて右傾化した、とされています。
本当にそんな単純なものだったのか?
これがずっと長年の疑問でしたが、ブログで指摘されているような力学が働いた結果なのかもしれませんね。
投稿: pchong | 2010/05/19 15:51
太田光は読・朝・毎・産経の社説を、たけしは極力メディア媒体を避け“巷で偶然見聞きした生の情報”が(政治)発言のソースのようで…
トホホ(>_<)
投稿: リキロン | 2010/05/19 12:52
そうですか、ラジオ 大田光 そんなにヒドイですか。
5年ほど前、私も爆笑の深夜放送を聞いていました。
その時、大田は空想的平和主義で小泉自民党を攻撃していましたね。それと反米、反ブッシュ。
2時間 自分の言い分をしゃべる回がたまにあって、私とは意見が違うけど、面白く聞いていた記憶があります。
TBSは三宝会ですからね。先日のニュース23 野中さんのインタビューは局の限界、ディレクターが勝負したんじゃないかな。
先日 実家で両親、弟と話した時、(最近のテレビはおかしい。無理やり民主党批判して、押し付けてくる。)
と申しておりました。
一般のB層ですが案外世間は気付いているようです。
参院選で自民、ゾンビ政党が勝つ様じゃこの国も国民も奴隷のままが良いという意思表示なのでしょう。
投稿: gogohmatui | 2010/05/19 00:47
ビートたけしが一番悪辣だ!あいつは政治をお茶の間のおもちゃにしちゃった。
投稿: イチロージュニア | 2010/05/18 19:54