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2010/04/23

メディアの生死を分ける要素

もう10年以上前のことだが、自動車評論家の徳大寺有恒氏が、「いま現在の少なからぬ日本車はこの世からなくなっても誰も困らない。ここがヨーロッパのクルマとはうんと違うところで、欧州メーカーのクルマというのは、そのクルマがなくなってしまうと困る人がたくさんいる。そういうクルマをなかなか作れないのが日本メーカーの弱点だ」と言っていたのを聞いて「なるほど」と思ったことがある。
ま、もちろんその後、日本の自動車メーカーの状況も大きく変わり、日本車のありようも少しずつ変わってきた。
そんななかで、たとえばホンダという会社は他メーカーの合従連衡が進むなかで今でも独立でやっているわけだが、その大きな要因の一つは自動二輪、つまりバイクがあるからだと思う。ホンダは世界一の自動二輪メーカーで、ホンダのバイクがなくなってしまったら、世界中で困る人がたくさん出てくる。この事実がホンダという会社の価値をものすごく上げている。
あるいは軽自動車を作っているメーカー。軽の規格というのはドメスティックなものだが、しかし日本社会においては絶対に必要なものだし、世界的に見ても小さなクルマを作る技術はこれからますます脚光を浴びるだろう。

さて、当時、徳大寺氏の話を聞いた私は、「自分の所属する会社が発行している本、雑誌で、なくなったら世の中の人が困ってしまうようなものはどれぐらいあるかナ?」と考えてみた。
そして出た結論は「ほとほどない」だった(-_-;)。
これには慄然とした。
で、まあついでに余計なお世話だが他社についても考えてみたのだが、たとえば岩波書店がなくなってしまったら世の中には困る人が出てくるだろう、だからこの会社はおそらく残る、経営がおかしくなってもきっと救済の手を上げる会社が出てくるだろうと思った。
あるいは福音館書店。ここから出ている「ぐりとぐら」シリーズ、「だるまちゃん」シリーズといった絵本は、自分に子どもができたときに買ってやったが、実はそれらはかつて私自身も親から買ってもらった本ばかりだった。「いやいやえん」なんて私が生れた年が初版である。

話が前後するが、児童書ということでいえば岩波も充実している。「きかんしゃやえもん」が阿川弘之著であることをご存知ですか? おそらく阿川先生の一番売れた本、そしてもっとも多く印税を手にした本は「きかんしゃやえもん」だろう。しかも今もその印税収入があるはずだ。
他にも「ドリトル先生」シリーズ、「長くつしたのピッピ」シリーズと、これみ~んな岩波から出ている。

寿命が長い商品というのはそれだけ価値があるわけで、こういう本を刊行している会社は強い。しかも身の丈にあった経営をしている。
もちろん児童書の他にも価値のあるジャンルはたくさんあって、いまやコミックもその一つだろう。
そして、そういう価値あるコンテンツを持っている会社は、たとえ電子書籍の時代が来ても生き残る可能性が高いと思う。

しかし一方で読んでも読まなくてもどちらでもいい、絶版になろうが休刊になろうが誰も困らない、知ったこっちゃない本や雑誌を出している出版社がわんさかあることもまた事実である。そういう会社の出版物はこれまで他に読むものがなかったり娯楽がなかったから売れていたに過ぎない。
そして当ブログで再三指摘しているように、とくにそういう雑誌をたくさん抱えて莫大な広告収入を得ていた会社が大変だ。なぜなら、その圧倒的な広告の利益率がダイレクトに高コスト(=高賃金)体質につながっていたから。

これはテレビや新聞もまったく同じこと。
今月の初旬、TBSに続いて日本テレビでも1日に放送したすべての番組で視聴率が10%に届かない日があったという。そこでこの日の番組表をながめてみると、これがまた見事なまでに「別に見なくても誰も困らない番組」がズラリと並んでいる。ひと昔前なら、それでもそこそこの視聴率を取れていただろうが、今の時代はそんなものを見る時間があったらYouTubeで面白い動画を探した方がはるかに有意義で、これでは視聴者が離れていくのは当然だろう。
では、気合いを入れて質の高い、価値あるコンテンツを作れば問題が解決されるかというとそういうわけでもない。なぜなら、ほとんどの場合、そういうコンテンツはマス相手のマーケティングとはマッチングしないから。
たとえば教育テレビの語学のコンテンツはなくなると困る人が多いだろうが、しかし視聴率自体は数%しかない。したがって民放でそういう番組を作っても、今までのような莫大な広告収入を得ることができない。
雑誌広告で大儲けしていた出版社が児童書を作り出してもあっという間に潰れるだけだ。
と考えていくと、やはりどう考えてもマスを相手にしたメディア企業は相当数が潰れていく運命にある。

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