マスメディア最後の砦、テレビの終わりとUSTREAMワンダーランド
私は地上波のテレビというのはスポーツ中継以外あまり見ない。とはいってもオリンピックにもそれほど興味があるわけではないので、今回のバンクーバー大会にしても真剣に見たのは女子のフィギュアだけであった(これはさすがに面白かった)。
そんななか、2月の終わりは金曜日の晩、そして日曜日の昼、夜とUSTREAMに釘付けになってしまった。
その最初は2月26日に文京区民センターで行われた「『小沢vs.検察』に見る検察と報道のあり方」というシンポジウムの生中継。出席者は元大阪高検公安部長の三井環、鈴木宗男、安田好弘という不当逮捕経験者の濃ゆい3人に加えて上杉隆、青木理、元木昌彦といったジャーナリストの面々(鈴木宗男は途中退席)。
司会の篠田博之(「創」編集長)の仕切りがイマイチだったが、三井環による「検察は裏金作りを表沙汰にしないために後藤田正晴を通じて時の小泉内閣に泣きついて借りを作ってしまった。これが最近の国策捜査の原点である」という指摘(三井はこれを「けもの道」と呼んでいる)、そして安田好弘による「事件を捏造する特捜部は解体すべきだ」との指摘はマスメディアではほとんど取り上げられない主張なだけに重みがあった。
しかも視聴者はtwitterでこの議論に参加することができ、タイムラインは相当なスピードで流れていた。
その次は28日の日曜日。
東京マラソンに出場する友人が、iPhoneで位置情報を知らせたりtwitterでつぶやいたりすると予告していたので、朝からタイムラインを眺めていたら、USTREAMで走りながらiPhoneを使って実況をしている外人さんがいるというtweetが流れてきた。そこで早速、この中継を見てみると、これがまあ面白いのである。
基本的にはジョセフさんというランナーの顔が映っているのだが、時々、周りの景色が映ることもある。ジョセフさんは英語と日本語で喋りながら走る。
走りながらUstream配信 東京マラソンに“実況ランナー”
iPhoneでの中継だから画質がいいわけではない。しかもフレームは走っているからカクカクと動く。ところが沿道の声援などとも相まって妙に臨場感がある。GPSによって走っている位置がリアルタイムにマップ上に示されるのも興味深い。
で、このジョセフさん、頭にうさぎの耳をつけ走っており、突然「うさぎパワー」と叫んだりする。するとtwitterに「うさぎパワー(w」というようなコメントがどどーっと流れるのである。
ものは試しにジョセフさんが沿道の人の声援に応えたり、一緒に走っている人と話したり、自分に叱咤激励している映像と日本テレビの東京マラソン中継の映像をパソコン上で並べてみた。すると日テレの映像はもちろんキレイで女子アナが走っていたりするのだが、その内容たるや面白くもなんともない、、、というか、なんともやらせくさい。
一方、ジョセフさんの方は前述のように一貫してカクカク映像だが、太陽の塔の着ぐるみランナーが走っているのがチラチラ映ったりすると、もう気になってしようがない。当然、タイムラインは「なんだあの着ぐるみは?」と盛り上がる。
そうこうしているうちにゴールが近づき、結局、私はこの中継を最後まで見てしまった。もともと東京マラソンなんてほとんど興味なんてなかったのに、、、(ちなみに友人は15キロでタイムオーバーになるという体たらく)。
さらにこの日の夜は、以前に書いたケツダンポトフのそらのさん企画による「第一回 朝までダダ漏れ討論会」(略して『朝ダダ』)の生中継があり、私はこの第1部も見てしまった。
コンセプトは「共有から、参加へ」、討論テーマは「どうなるこれからのジャーナリズム!」。
討論内容自体は、出場者の発言がそれぞれ予想の範囲内であったため全体に目新しさはなかったが、しかしやはりtwitterで視聴者がどんどん感想を言えること、そして編集という作為がまったく入らないライブ中継で、途中にCMが入るわけでもないので見応えは十分にあった。
と以上、3つのUSTREAMの生中継を見てつくづく思ったのは、いまテレビ局や家電メーカーが必死になってやっている画質などの向上をいくら進めても、コンテンツ自体に魅力がなければ話にならないということだ。
逆にいえば、視聴者としては自分の興味あるコンテンツを見られるのであれば、少なからず画質が悪かろうが音声が途切れようがさしたる問題ではない。
そうして、そのぐらいのレベルのライブ中継であれば、もはや誰もが極めてローコストで行うことができるのであって、つまり参入障壁は事実上ない。しかも画質や音声等のクオリティは、機材や通信インフラの品質向上とともに今後、飛躍的に進歩するだろう(現在のiPhoneより、もう少しクオリティの高いライブ中継用カメラの登場を私は待ち望んでいるが、それは遠からず製品化されると思う)。
となると、ありとあらゆるコンテンツがライブ中継の対象となる。自分の子どものサッカーや野球の試合からピアノの発表会、あるいはお年寄りのゲートボールだってなんだって生中継ができる。
もちろん突き詰めれば、さまざまな権利問題が発生するだろうが、いまその議論を脇に置けば、たとえ数十人、いや数人でも見たい人がいるコンテンツを中継することは可能である。つまりネットによるライブ中継は、既存メディアによる視聴率至上主義とは真逆の、少数だが膨大な(それこそ天文学的な)数の視聴ニーズ(=ロングテール需要)を掘り起こすことを可能にしたわけだ。
それがうまくマネタイズできるかどうかはわからない。しかし、孫正義はUSTREAMへの投資の理由に広告モデルの可能性をあげている。そして、ここ最近の広告のトレンドを見れば、その可能性は十分すぎるほどある。
また、たとえ少数のニーズしかないコンテンツであっても、それを見たい人が「少々のカネなら出してもいい」と思えば有料課金できるケースも出てくるだろう。
と、こうして見ると、webによるライブ中継はまさに宝の山の出現である。
だが、視聴率を最重視することで莫大な広告収入を得、それによって高コスト体質を克服するというモデルを構築してしまったマスメディアは、この宝の山に手を出すことはできない(NHKの場合は受信料収入であるが、これも動画の視聴形態が変わっていけば、減ることはあっても増えることはないだろう)。
一方、視聴者はこれまでテレビ以外に選択肢がなかったからこれを視聴していたに過ぎず、個々の興味を満たすコンテンツがweb上に登場すれば、どんどんそちらへ流れていくだろう。
もちろん現状ではUSTREAMを視聴している人の数は、マスメディアから見ればおよそコンペチターと呼ぶにはふさわしくないほど少数だ。しかし、これはほんの十年ほど前、インターネットに接する人が現在と比べればごく少数であったのと同様で、短期間に爆発的に増える可能性がある。
しかもライブ中継というのは、マスメディアの常套手段である編集による情報操作(VTR放送)と真っ向から対立するものなので、そのギャップを感じ取った視聴者のメディアリテラシーを上げる可能性が高い。すると、ますますテレビ離れが起きるはずで、そうなると視聴率=広告収入という図式は完全に崩壊する。
ま、そんなことはYou Tubeが登場した時にも(あるいはそれ以前からも)言われていたことではあるが、USTREAMがブレークすることで、そのスピードがさらに加速するのではないかと思った週末だった。
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コメント
あるテレビ局を定年退職された方が近くにおられ、総務省からコミュニティラジオの認可がおりたので協力してほしい、ということがあり昨年から動いていたのですが、今年になってからiphoneを手にし、さらにUSTREAMの存在を知って「これは徒労ではないか」という判断で企画から私は降りることにしました。
アンテナ立てるのに500万かけて、放送機材に1000万かけて、広告費とって人件費払って、ほぼ60万人くらいの聴取可能人口。果たしてビジネスが成り立つのか。。そんなときに、USTREAMで画質こそ悪いけど世界に中継できる、みたいな話を聞いて愕然としたのはいうまでもないことです。「これでいいじゃん(苦笑)」という感じですよね。詳しい方には今頃なにいってんの?くらいの笑い話だと思うのですけど。
先日、文化放送で、えのきどいちろうさんが、日本ハムファイターズの2軍の中継のためにできた「インターネットラジオ局」の話をされてました。マンションの一室にICレコーダーとマイクがあり、そこで話をしてるだけなのだそうです。1割、2割のコスト削減の話ではないのです。ほとんどゼロに近いコストで放送局ができる、ということなのですね。
なん百億とコストをかけた地上波デジタルが来年スタートして、同時に、コストほぼゼロのインターネット放送が雨後のタケノコのように生まれ、ひとつでも広告が取れて大きくなるようなものが生まれたら、どうなるのか?
もし、インターネット放送で、たとえば無くなってしまうアクセスや、かつてのストリームやテレビでいえば関西のムーブのような番組ができれば私はたぶん聴取するでしょう。
想像しただけで、面白くもあり、恐ろしくもある話です。地上波デジタルに投じた資金は必ずや国民が払う羽目になるはずですから。。
投稿: kumagaya piano | 2010/03/05 17:40
全く同感です。26日のシンポジウム(雨の中を出かけてきました)、28日の東京マラソンと朝ダダ、kappamanさんと同じもの(こと)を追っかけていました。
投稿: もりた | 2010/03/02 17:27
26日の集会はやはり時間が足りませんでしたね。朝ナマくらい長いといいのですが…。
刻々とつぶやきが表示されたのも良い企画だったと思いました。
安田弁護士がメディア(特にTV)によって
悪いイメージを持たれていたのが気になっていたのですが、それが覆されたというだけでも良かったと思いました。
投稿: ishii | 2010/03/02 13:33
全く同感。
投稿: toshichan | 2010/03/02 09:17
ここ10年というか5年のWEBの実利的な進化を見ると、これから先に何があってもおかしくない気がします。
ご指摘の通り個々の興味を満たす完成度の高いWEBコンテンツは、すでに充実した状況になりました。
一方的に画一化され、かつ質の劣化した情報をタレ流す大半のテレビ局のようなビジネスは、余命幾ばくもないと思います。
10年後には世界が確実に変わっていると確信しています。いや、5年後かもしれませんね。
先日、ローランド・ジェラットという人が40年以上前に書いた「レコードの歴史」(邦訳:音楽之友社刊・絶版)という本を読みました。
蓄音機からステレオLPレコードまでの歴史を振り返ると、魅力的なコンテンツが技術革新を大きく世に広めるために不可欠な推進力だったことがよく判ります。
そしてコンテンツの価値・意味が判らず(旧)技術にしがみついた者は、悉く淘汰されたのです。天才発明家エジソンも例外では有りませんでした。
既存メディアがなりふり構わぬ悪足掻きで、中国みたいなWEB規制とか言い出したりするかもしれませんね…
投稿: 悪代官 | 2010/03/02 06:24