郷原信郎氏の「小沢代表が今、行うべきこと」という文章が日経ビジネスオンラインにアップされた。ただし数日たつと無料とはいえ、会員にならないと全文を読むことができなくなるようである。
が、「晴天とら日和」さんが全文を転載してくれているので、そちらを参照されたい。
私は気になったところだけ、アップしておく。
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半年以内に総選挙が行われるという政治的に極めて重要な時期に、野党第一党の党首の公設秘書がいきなり逮捕され、結局、起訴された事実は、3500万円という比較的少額の政治資金規正法違反、しかも、収支報告書に記載された「表の寄附」の名義に関する「形式犯」だけ、という従来の検察の常識からは考えられないものだった。
一方で、秘書逮捕以降、新聞、テレビでは、出所不明の「関係者供述」によって、政治献金が公共工事の談合受注の見返りであるかのような報道が連日行われた後、世論調査の結果から「小沢氏説明不足」「辞任すべし」が民意だとの報道が繰り返されている。
しかし、その辞任論の根拠は、「政治資金に関してかねて問題が指摘されていた小沢氏の公設秘書が政治資金規正法違反で起訴されたこと」だけだ。与野党の支持率を大きく変え、小沢氏を首相候補の筆頭から引きずり降ろす結果になった検察の捜査、そして、それに関するマスコミ報道についても検証を行うことが、国民が、小沢辞任論の当否を判断し、総選挙における政権選択を適切に行うためにも不可欠であろう。
(中略)
そして、もう1つ重要なこと、小沢代表の秘書が逮捕され起訴された事実が、果たして、政治資金規正法違反になるのかどうか、違法なのかどうかについて、根本的な疑問があるということだ。
3月11日の「代表秘書逮捕、検察強制捜査への疑問」 でも述べたように、政治資金規正法では、収支報告書に「寄附をした者」、つまり寄附の外形的行為を行った者を記載するよう求めているだけで、寄附の資金を誰が出したのかについては記載する義務はないというのが、これまでの一般的な解釈だ。小沢氏の秘書が、寄附の資金が西松建設から出たものだと知っていたとしても違反にはならない。違反になるとすれば、寄附名義の政治団体には全く実体がなく寄附行為者になり得ない場合、しかも、それを小沢氏側が認識していた場合だ。しかし、事務所を賃借し、常勤の役員もいると言われるこの団体が政治団体としての実体がないとは言い難い。それが実体がないと言うのであれば、全国に何千、何万とある政治献金を行うだけの目的の団体の設立届が虚偽で、それを寄附者と記載した収支報告書は虚偽記載ということになる。
もう1つ、あえて検察の解釈論を忖度するとすれば、今回の寄附名義の政治団体は、実体があっても、人的にも資金的にも西松建設のダミーであって、西松建設と一体のものだから、このような政治団体の実体を認識した以上、西松建設を寄附者と記載すべきだという、脱税事案などでよく用いられる「法人格否認の法理」のような考え方を取ろうとしている可能性もある。
しかし、実質的な所得の帰属に応じて課税しようとする税の世界の問題、その中で、実質的に多額の所得を得ているのに、それを形式上ごまかして税を免れようとしている人間を処罰する脱税事犯の摘発の問題と、政党・政治家が共通のルールによって政治資金の透明化を図り、健全な民主主義を実現していこうとする政治資金の世界とは全く異なる。従来の解釈を逸脱した法解釈による罰則適用は捜査機関による不当な政治介入を招く恐れがある、もし、そのような解釈論を取るのであれば、事前にそのことが明示される必要があろう。
このように考えると、小沢氏の資金管理団体の収支報告書について虚偽記載罪が成立するのか否かについて重大な疑問があり、そもそも、これを政治資金規正法違反だとする検察の主張自体が、公判審理に入る前の段階で崩壊する可能性すらある。
このような指摘が正しいとすれば、今回、小沢代表の秘書が政治資金規正法で起訴されたことが、ただちに小沢代表の説明責任や辞任の問題につながるということにはならないはずだ。
(中略)
しかし、今回の事件報道には、従来にはなかった一つの特徴がある。それは、従来、「関係者によると」「とされている」などと完全にぼかされていた取材源が、「捜査関係者」などと特定されている記事が多かったことだ。
そして、その報道の中には、看過し難い重大な問題を含 むものもある。
1つは、陸山会代表としての小沢氏の「監督責任」に関する3月8日の産経新聞の記事だ。3月25日の「検察は説明責任を果たしたか」で述べたように、代表者の責任は「選任」にも過失がある場合に限られるのに、ことさらに「監督責任」だけを強調し、小沢氏を議員失職に追い込めるように報じたこの記事は、この問題に関する関係者の行動や社会一般の認識に重大な影響を与えるものであった。
もう1つは、検察の小沢代表秘書起訴を受けて、小沢代表が重ねて違反事実を否定し、捜査・起訴の不当性を訴えて、代表続投の意向を表明した直後の25日午前0時から翌朝にかけて、「小沢代表の秘書が『西松建設からの献金だと認識していた』と、収支報告書へのうその記載を認める供述をしていることが関係者への取材でわかった」とトップニュースで報じたNHKの問題だ。
このNHK報道がきっかけとなって、多くの新聞、テレビが、「大久保隆規秘書、容疑事実を大筋で認める供述」などと報じたが、27日、大久保氏の弁護団は、大久保氏が自白していることを真っ向から否定した。
この報道が行われた後、各新聞、テレビで世論調査が行われ、「小沢代表の説明に納得できるか」「小沢代表は続投すべきか」という質問に対する回答結果が、翌週の初めに次々と公表された。NHKの報道と、それに追従した他のメディアの報道によって、多くの人が、起訴された秘書が違反を認めているのになおも違反を否定し続けている小沢代表の「苦しい言い逃れ」との印象を受け、「小沢代表の説明には納得できない」という回答に誘導されたと考えられる。
この報道が、小沢代表秘書の政治資金規正法違反事件による起訴をどう受け止めるべきかについて国民に誤った認識を与えたことは否定できない。
(中略)
小沢代表は、今回の事件が政治資金規正法違反に該当しないと一貫して主張してきた。しかも、筆者が指摘するように検察の起訴事実について重大な疑念が生じている。そうである以上、最も重要なことは、公判の場で早急に結論を出すことだ。選挙違反事件について公職選挙法で「100日裁判」が要求されているのと同様に、今回の事件についても、早急に公判前整理手続で争点を整理し、集中審理によって、早期に判決が出せるようにするべきだ。私は、起訴直後から、「選挙との関係を考慮し遅くとも7月ぐらいまでには判決が出せるようにすべきだ」と述べてきた(3月25日付朝日新聞など)。
弁護側が、早急に手続きを進めることを強く求めれば、裁判所も、検察もそれに応じざるを得ないはずだが、報道されている限りでは、小沢代表秘書の起訴から 20日余り経過した現在まで、保釈に関する動きも公判手続きに関する動きも全くない。違反に該当するかどうかも微妙な形式犯で40日以上も秘書の身柄拘束が続いているのは、決して容認できることではないはずだ。
今回の事件が小沢代表の政治資金管理団体の問題であり、起訴された被告人の大久保氏が、今も小沢代表の公設第一秘書の立場にある以上、小沢代表は、今回の刑事事件について当事者に準じる立場にある。小沢氏から公判審理の促進を強く求める意向が示されれば、 被告人の秘書本人も弁護人も従うはずだ。
秘書の逮捕直後から一貫して検察の捜査を批判してきた小沢代表の主張が変わらないのであれば、公設秘書が起訴された政治資金規正法違反事件に真正面から向き合う姿勢を明確に示し、公判での真剣勝負に挑むべきだ。そうでない限り、今回の問題について、小沢代表が、国民から理解と納得を得ることはできないであろう。
(以下略)
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