落合は“吐き捨てた”のか? 小沢は“挑発”したのか?
Webを眺めていたらこんなニュースにお目にかかった。
来季から楽天に移籍する中村紀洋について、「おそらく落合監督ならばこんなコメントをするだろうな」と思っていたその通りのものだったのが嬉しい。
このコメントを見て改めて感じるのは、落合博満という人物がきわめて真っ当な感覚の持ち主であるということだ。
ところが相も変わらずこの監督へのバッシングはことあるごとに行われている。
先日もWBCの日本代表候補に挙げられた中日の全選手が辞退したことについて、さまざまなメディアで落合叩き、中日叩きが行われた。もちろん中日側の反論を掲載していた雑誌もあったが、全体としてメディアは「日本野球界全体が協力しようとしているWBCなのに中日だけ、そして落合だけがわがままをいっている」という“空気”を作ることに傾注し、それは成功した。
これに対する落合の会見の内容はこちら。
これを読むと、落合の言っていることはきわめて当然のことだと私は思う。
その一方でこの記事の書きようには非常に引っかかる部分がある。
たとえば「「1回しか話さない」と断った上で独演会が始まった。」とある。落合が会見に応じたのに、わざわざ「独演会」という単語を使うことによって一方的にまくしたてたという印象を与えたいのだろう。が、これはひっくり返して言えば、記者はただご意見を拝聴しているだけに過ぎないということでもある。取材対象との関係が必ずしも良好に構築されていないとしても、相手が会見をしているのならば質問なり反論をすればいい。実際にはしているのだろうが、それをわざわざ「独演会」とネガティブに書くのは恣意的な情報操作である。
あるいは「さらに代表引退を表明した宮本(ヤクルト)や上原(巨人)を引き合いに出し「そういう一部の人間には配慮するのに、こっちはメッタ斬りするのか」と吐き捨てた。」とか、「また昨年12月の北京五輪アジア予選のメンバーから外れた松中(ソフトバンク)にも言及。「けがをしたときにどうなるんですか、と聞いたら外された。(ファンから)首くくって死ねといわれて、誰かがフォローしてやってくれるのか? 負けて被害を受けるのは選手なんだ。二度と味わいたくないと思う人間がいても不思議はないだろ。(代表に)来いといえば全部出てくると思うのは大間違いだ」とまくし立てた。」という部分。落合としてみれば、当たり前の怒りの表明だし、自分たちの選手を守るための発言としか思えない。それをわざわざ「吐き捨てる」「まくし立てる」などと書く。そういうやり方をするから落合自身も記者を相手にする気が失せるのだろうが、実はこれこそが巧妙に空気を作り世論を引っ張るマスコミ一流のテクニックである。
このような事例は日々さまざまなところでお目にかかるのだが、やはり最近引っかかったのが先日の党首討論翌日の記事だ。
「小沢氏は討論冒頭「二年半余り前に民主党代表に就任して、三人の総理に三回目のお祝いを申し上げることになった。近いうちに四回目のお祝いを申し上げる状況になりかねない」と衆院選なしに「安倍-福田-麻生」と続いた首相交代劇を皮肉った。
その上で「選挙の洗礼を受けた首相がリーダーシップを発揮するのが民主主義」と麻生政権の正統性に疑問符を突きつけて挑発。「私の初当選も十二月。年末の選挙は往々にしてよくあった」などと早期解散を迫った。」
これは11月29日の日経朝刊、党首討論に関する記事の一部である。
まず小沢が「皮肉った」という部分。これはTBSラジオのアクセスで武田記者指摘していたが、小泉が総理時代に「自分はずっと総理大臣なのに民主党の代表はコロコロかわる」といったことへの意趣返しである。ま、皮肉といえば皮肉だが、そういう裏がある。
さらに続いて「正統性に疑問符を突きつけて挑発」とあるが、麻生政権の成り立ちに疑問を投げかけるのは至極真っ当、当たり前のこと、少なからぬ国民が「とにかく早く選挙をやってくれ」と思っている。つまりこれは当然の質問で、わざわざ「挑発」などという言葉を使う必要はない。
さらにこの記事では「(小沢が首相の資質に疑問を呈して)討論も終盤で「首相が反論して墓穴を掘ればもうけ物」といった思惑がにじむ指摘だったが」と書いている。が、この記事を書いた記者がいかなる根拠で「小沢の思惑」を感じ取ったのかはわからない。
とこのように、新聞記事、あるいはテレビのニュースは、一見、客観報道をしているようなフリをして、実は文章やコメントの隅々に自分たちが誘導したい方向へと印象づける単語を使う。これを日々、読者や視聴者に刷り込むことで世論を形成していくのである。
だからといってアソーのように新聞を読まないというわけにもいかない。
ではどうするか。個人的には「いま読んでいる記事について、聞いているニュースについて常に真実であるかを疑ってかかる」ことが必要なのだと思う。
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