日本の「人間」は影だらけ
水平社宣言の締めくくりである「人の世に熱あれ、人間に光あれ」。この「人間」という言葉は「にんげん」ではなく
「じんかん」と読むという話を聞いたことがある。
つまりここでの「人間」は人間(にんげん)そのものを指しているのではなく、「人と人との間」、転じて「すべてのもの」であり、そこに「光あれ」ということは「すべてのものに平等に光があたるように」という意味だというのである。
昨日のTBSラジオ「アクセス」のパーソナリティは2週間に一度の田中康夫。私がこの番組を唯一最初から最後まで聴く日である。
さて、この番組の中には一日のニュースをランキングする「カウントダウン・トゥデイ」というコーナーがある。昨日はその1位から3位までが川田亜子の自殺、長崎市長の射殺犯に対する死刑判決、江東区の行方不明女性に関するものと、すべて死に関わりのある出来事であった。
これに対して田中康夫が述べたコメントはおおよそ次のようなものだった。
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1位から3位まで自殺であったり射殺であったり殺害であったりというニュースだけれども一つ思うのは(長崎市長の射殺の判決で裁判官が)「選挙制度と民主主義を根底から否定する犯行」「言論を封鎖するような犯行」と言い、「市長であって選挙中だったから殺されるのはけしからん」とマスメディアもみんなそういうふうにいうけど、これにすごく違和感がある。
もちろん射殺事件というのは許されることではないけれども、たとえば江東区の女性と比べて人の死に、殺人に優劣の差があるのか?
ある意味で選挙に出て人のために働く、公人になるというのは死を美化するとか殺人を肯定するということではないけれども、すべての覚悟をもって社会に貢献しようというということではないのか。
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ここで田中康夫が感じている“違和感”というのがとても大切だと思うのである。
それは私の理解では、「人と人の間に光がちゃんとあたっているか」を意識することであり、つまり「水平的な視線」を持つことなのだと思う。
先日、webで朝まで生テレビの討論の一部を見た。新たな貧困、ワーキングプアの問題などを中心に討論をしていたようだが、私が何よりも不気味だったのは世耕弘成という世襲議員で、この男がしきりにいうのは「上に伸びている人間の足を引っ張るな」ということである。
そもそもそういうセリフを世襲議員風情が吐くこと自体がけしからんと思うのだが、この世耕に対して反論していた民主党の山井和則に対して、田原総一朗が脈絡なく「彼は社民だ」というレッテル貼りをしたのには驚いた。
この国の人間(じんかん)はいまだ影だらけで、水平社宣言が掲げた理念に近づくどころかどんどん遠ざかっているということなのだろう。
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コメント
Linusさま
過分なお言葉をいただきましてありがとうございました。
普段、思ってしまうことを時々、書きなぐっておりますが、どうも私の考えというのは極めて少数派のようです(^_^;)。
ひょっとして自分は間違っているんじゃないかと考えてみることもあるのですが、そんなときに田中氏の発言を見聞きして「そんなに大きくは間違ってないナ」と再確認しております。
とはいえ、私は一介の会社勤めの営業マンなので、誤りも多々あると思います。ご容赦ください。
なお人間を「じんかん」と読むのが本当に正しいのかはわかりませんが、私はそれを永六輔と住井すゑさんの共著で知りました。
投稿: 誰も通らない裏道 | 2008/06/04 10:27
はじめまして。拝見させていただくようになってから、半年弱くらいでしょうか。愛読者です。以前の記事もとても興味深く読ませていただきました。こちらにコメント欄がたててありましたのでお邪魔いたします。
私も田中氏のアクセスを聞いていました。というかブログ主様や小林信彦氏(文春の連載にあり)と同じように、田中氏の担当の日は必聴と思っていますので、毎回欠かせないのです。
長崎の裁判、川田さんの件、江東区の殺人事件における田中氏の発言は深く考えさせられるものであり、とりわけ裁判の判決に感じたという田中氏の違和感に比べ、朝日新聞(他紙もそうらしいが)やテレビのキャスターやコメンテーターなどが判決文をそのままなぞり、絶賛する幼稚さ、鈍感さ・・・
「政治家というものは、自らの歴史観と哲学と覚悟に基づき、生きた言葉によって人々を冷静に認識させ、冷静に鼓舞し、冷静に参加させるということができなくてはならない」という田中氏のことばが好きなのですが、アクセスでも政治に携わろうとする者の[覚悟]に強く言及していましたね。
人間をじんかんと読むとは知りませんでした。ついつい分かっているようでいて、実は知識が浅かったり、思い込んでいて気がつかないことが多いのでしょう。勉強になります。
投稿: Linus | 2008/06/02 02:04