2010/06/19

1994年~「郵政省解体論」ができるまで(1)

小泉純一郎氏と経営評論家・梶原一明氏の共著による「郵政省解体論」は1994年9月に出版された。2001年に総理大臣に就任し郵政民営化に邁進した小泉氏が、その政治的主張を鮮明に打ち出すきっかけとなったのがこの本である。では、「郵政省解体論」はどのような過程を経て誕生したのか、、、

 その1 そもそものきっかけ

今、手元にある1994年の手帳を見ると、2月4日の夜に経営評論家の梶原一明氏と会食をしていたことが記されている。場所は銀座だった。
この会食は前年の11月末に出版された梶原氏と徳大寺有恒氏による共著の、ちょっと遅れた打ち上げということだったはずで、他には私の上司である編集長が同席していた。
その席で編集長や私が「何か面白いネタはありませんかね?」というようなことを梶原氏に言うと、「郵政大臣だった小泉純一郎というのは面白いと思うんだ。彼に『郵政省解体論』を語らせてみたら売れるんじゃないかな。自分が聞き役をやるから」というようなことをおっしゃった。

当時は自民党が政権から転落して細川政権の時代である。私は小泉純一郎という政治家の名前はもちろん知っていたが、山崎拓、加藤紘一と組んだ、いわゆるYKKの一人というぐらいの知識しかなかった。あとは旧福田派の系譜にいたことでタカ派だと思っていたら、自衛隊のカンボジア派遣に反対していたので「おやっ?」と思った程度である。宮沢内閣時代に郵政大臣でずいぶん官僚と揉めたことも知ってはいたが、その詳しい中身までは恥ずかしながら勉強不足で知らなかった。

話を会食の時点に戻すと、酒の席ということもあり、梶原氏のその話でひとしきり盛り上がったが、しかし私は心の中で「そんな話をいくらなんでも小泉が受けるわけはないよな」と思ったのも事実である。
実際、後になって聞いてみると、梶原氏は当時この話を何人かの編集者にしていたらしいが、みんな「話としては面白いですけど、、、」と乗ってこなかったという。
ところが、この会食の翌日出社すると、上司は私の顔を見るなり「昨日、梶原さんが言っていた小泉の話は面白いじゃないか。やってみろよ」と言ったのである。もちろん私は内心「ハア?」と思ったが、とりあえずそんな気持ちは表に出さずに「本気ですか?」と訊いてみた。
すると、元々きわめて調子がいいタイプの上司は「そんなのダメもとだろ。断られたって別に失うものは何もないし、とりあえず声をかけるだけでもやってみろよ」とあっけらかんと言うのである。
ま、この上司の言い分ももっともではあった。日ごろから付き合いがある人たちの延長線上にいる人に企画を持ち込む場合はあまり突拍子もないことを言うと、後でいろいろと困ったことになることもある。が、今回の相手はテレビでしか見たことのない、自分たちとはまったく別世界にいる政治家である。そういう人物なら、たとえ企画を持ち込んで「バカヤロー!」と怒鳴られても「失礼しました」といって引き下がればいいわけで、それでなんの問題もない。後になって「こんなこともあって、怒鳴られちゃったよ」と面白おかしく周りの人に話せばいいだけのことである。

とはいえ、、、
当時は野党だったが、やはり相手は自民党の大物である。郵政省に対していくら一家言あったとしても、仮にも大臣までつとめた省庁の“解体論”など喋ってくれるのだろうか?という点については甚だ疑問、というよりもほとんど断られるものと思っていた。
ちなみに、この時点で小泉純一郎という政治家が将来、総理大臣になると思っていた人はきわめて少なかったはずで、私ももちろん夢にも思っていなかった。

さてしかし、上司から指示されてしまったからにはとりあえず動かざるを得ない。
そこで詳しいことは忘れたが、まずは企画書を作り、それから議員会館に電話をしたのだと思う。すると秘書が出たので(後から考えると飯島勲氏だったわけだが、当時はまったく知らなかった)、とりあえずこちらの名前を名乗って用件、つまり梶原一明氏という経営評論家と郵政省についての対談をして、これを「郵政省解体論」として出版できないかというようなこと、ついては企画書だけでも見ていただけないかということを伝えると、この秘書は「その企画書をファックスで送って」といって番号を教えてくれた。そこで私は教えられた番号あてにファックスを送ったわけである。

しかし、その後、小泉事務所からしばらく音沙汰はなかった。
そこで、どれぐらいたってからだったかは記憶にないが、ある時、恐る恐る小泉事務所に電話を入れてみた。
すると、、、
先日の秘書が出てきて、「ああ、やるから。3月○日の〇時から2時間とったから議員会館へ来て」といって電話はガチャリと切れた。

つづく

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