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2009/02/13

クルマ離れと活字離れ~自動車産業と紙媒体の共通点(3)

若者のクルマ離れ、活字離れは自動車産業、紙媒体にとってそれぞれ頭の痛い問題である。
が、これはなかなかに解決が難しく、速効性のある対策というのは見当たらない。
スズキの鈴木修会長は、昨年末の日経のインタビューのなかで「自動車復活のカギを握るのは、やはり米国市場の動向か」という記者の質問に対して「違う。クルマ離れ対策が急務だ。今の若者は堂々と『免許を持っていない』と言う。自動車は構造不況に陥る恐れがある。ピアノの販売不振に直面したヤマハがピアノ教室を展開して子供への関心を持たせたように、自動車業界も車を売るための手段を再構築する必要がある」と答えている。
これは鋭い指摘だと思う。
ただ、ここで難しいのは、これからのクルマというのは、もはやこれまでのように運転を楽しむとか、気持ちのいいドライブをするだとかという要素をどんどん削ぎ落としていく可能性が高いということだ。できるだけ速く走るためにコーナーで後輪を滑らせるよりも、A地点からB地点までを安全に、しかも環境に負荷をかけずに走ることが優先され、どうしても運転を楽しみたいのたらばカネを払ってサーキットでやってくれという時代が来るかもしれない。そうしたなかでクルマという商品の魅力をどうやって伝えていくかということには知恵が必要だろう。
とはいえ、鈴木会長が指摘するようなクルマへの興味を喚起する対策(とくに若年層への)が、自動車産業にとって今後、非常に重要になってくることは間違いないと思う。

では紙媒体はどうか。
これに関しては、とにかく活字を読むということが思考力をつける上で必要欠くべからざるものであるということを地道に啓蒙していくしかない。
幸い日本の場合、いまはその大チャンスだ。なぜなら新聞も本も読まず、ただマンガだけを読んでいると人はこれだけバカになるかというこれ以上ないサンプルが、よりによって総理大臣として存在しているのだから。
もちろんマンガを読むこと自体は悪いことではない。日本ほどマンガの内容が多岐にわたっている国というのはないし、実際、マンガによって学ぶことは多い。脳にとっても絵と文字を同時に読み進めていくことは悪いことではないらしい。
しかし、一方で思考力をつけるためにはやっぱり本を読んだ方がいい。
その意味で、紙媒体、とくに出版業界もたとえ少子化といえども若年層にアプローチした方がいいのではないかと思うのである。

いま書店へ行くと目につくのはもっぱら新書である。新書ブームといわれてすでに久しいが、いまやありとあらゆる出版社がこの市場に参入し、ありとあらゆるジャンルの本が出ている。
新規参入してくる会社から見ると、新書というのはこの不況にあって活況を呈しているように見えるのだろう。
たしかに話題になる本には新書が多い。が、一方で売れていない本も山ほどある。しかも新書というのは売れても利幅が薄い。たとえミリオンセラーになっても純粋に利益として残るのは実は1億、2億というところだ。これはちょっとした月刊誌のひと月分の広告予算ぐらいのものである。
つまり儲かりそうだと思って参入しても、案外と儲からないものなのである。
しかも新書を出版し続けるにはある種のノウハウが必要なので、それがない会社はいずれ脱落していくことになる。

さてしかし、これだけ新書が溢れかえっているにもかかわらず依然として独占的なマーケットを持っている新書がある。
それは岩波ジュニア新書だ。
恐らく多くの会社は岩波ジュニア新書が儲かっているとは思っていないだろう。たしかにそれほど儲かるものではない。けれども、まったく儲からないかというとそうでもない。
図書館や学校図書というベースマーケットが一般の書籍よりも広いし、夏休みの前になれば課題図書として営業をかけることもできる。なによりも参入している会社が少ない分、商売はやりやすい。
さらにいうと、実は岩波ジュニア新書というのは小中高校生だけが読んでいるのではなく、案外とその上の層も読んでいる。これは私が考えるにはNHKで放映されている「課外授業 ようこそ先輩」という番組(有名人が自分の母校の小学校を訪ねて授業をするという内容)を見ているのが子どもだけではないということと共通しているように思う。つまり大人にも十分に鑑賞に耐えうる内容を持っているのである。
「そうはいっても、やっぱり商売になるわけがないだろっ!」という声も多いだろう。現に私もそういう提案をしたことがあるのだが一笑に付されるだけであった。
しかし、ではそういっている人たちがつくっている本が商売になっているのかというと、実はほとんどなっていなのである。
一方、岩波書店は多少苦しくても、これからもジュニア新書を出し続けるだろう。それは単に金儲けのためではなく、ジュニア世代に良質な本を提供することは彼らの将来にとって必ずためになるという信念を持っているからだ。そうして子どもの頃から活字に親しんでくれれば、大人になっても彼らは岩波の出す本に目を向けてくれると信じている。
つまりここには金儲けとはまったく別のミッションがある。
そうして、いま企業にとって必要なのは、以前にも書いたが、まさにこのミッションなのだと思う。
なぜ自分たちはこの商売をやっているのか? 商品をつくっているのか? 
それはもちろん金儲けのためであるが、それだけだと売れそうなモノだけを追い続けるためにどんどん軸がぶれていく。そうしてしまいには何をつくっていのかもわからなくなる。
しかし、信じるもの(もちろんそれが正しくなければならないが)があれば、どんな時代でもあくまで基準はそこに置けばいい。

メルセデス・ベンツは「安全」に対する過剰なまでの信念をもっている。それは他のメーカーから見ればオーバーコストでしかないが、しかしメルセデスは安全性=社会性と信じているわけである。
そうして、またこの会社は世界中の子どもから来る問い合わせに対して実に丁寧に答えるという話を聞いたことがある。

こういう会社、つまり岩波書店やメルセデス・ベンツのような会社は、危機が叫ばれる出版業や自動車産業においても必ず生き残ると思うのである。

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