« 筑紫哲也氏の訃報 | トップページ | 麻生&自民党が支配する日本はアノミーに陥っている »

2008/11/18

トヨタが問われていること

先週、日本経団連の名誉会長である奥田碩が、「朝から晩まで年金や保険のことで厚労省たたきをやっている。あれだけたたかれるのは異常な話。正直言ってマスコミに報復してやろうか。スポンサーでも降りてやろうかと」と発言したことがニュースになった。
この発言に対する批判はマスメディアでは出て来ないが、すでに多くのブログなどで批判の対象となっている。
当然、私もこの発言には批判的なのだが、一方で「トヨタらしいナ」と妙に納得もしてしまうのである。

日本経済はいまや未曾有の不景気に突入しているわけだが、そのなかでも自動車産業は厳しい状況におかれている。
アメリカではGMの行方が焦点になっているが、北米市場が収益の柱となっているトヨタ、ホンダ、日産とてもはやアメリカでそうそう簡単にクルマは売れなくなっている。さらに日本市場の縮小が追い打ちをかける。
かつて日本ではクルマは4年ごとにモデルチェンジをし、そのたびにユーザーはセールスマンの口車に乗って買い換えをしてきた。が、だんだんと1人のユーザーが1台のクルマに乗る期間は長くなっている。
そもそも日本人が1年にクルマに乗る距離の平均というのは10年ぐらい前でも確か6000キロほどだったと思う(したがっていまはもっと少なくなっているかもしれない)。日本のクルマというのはとにかく壊れないのが最大の特徴だから、1年にこの程度の距離しか乗らないのであれば10年、いやそれ以上だって十分に乗ることができる。
一方で多くのユーザーがクルマの購入時にはオートローンを利用しているわけだが、この金利は決して低くない。したがってユーザーにとってこのローンを終えた先にどれだけ長く1台のクルマに乗るかどうかも家計にとっては大きなポイントになる(逆に言えば自動車会社は常に買い換えを促してきたのは、新車価格プラス金利収入が馬鹿にならなかったからでもある)。
要するに、クルマ1台の使用年数の長期化は、景気の動向に関わらずに見られる傾向なのだが、それに今回の大不況である。
となれば当然、クルマはさらに売れなくなるわけで、そうなるとメーカーとしてはコストカットをしていくしかない。
そこで期間工や派遣社員をここぞとばかりにリストラしていくわけだが、もう一つのポイントは宣伝予算の削減である。
どこの企業でも同じことだが、コストダウンを考える時に真っ先に手をつけるのは宣伝予算の見直しだ。
かつて景気の良かった頃は、新聞には毎日のようにクルマの15段広告掲載され、テレビには頻繁にスポットが流れ、雑誌の特殊面といわれる表2や表4にも自動車の広告がどんどん入った。ラジオにしてもタクシーをはじめとして自動車の中で聴くリスナーが多かったためクルマのCMは多かった。
が、いまやトヨタをはじめどこの自動車会社もとにかく宣伝予算を大きく縮小している。
ためしに書店へ行ったら男性雑誌(とくに週刊誌)を見ていただきたい。表2や表4にどの雑誌にも同じような映画の広告が入っていることがしばしばある。そのスペースのいくつかは間違いなくトヨタや日産がおりた痕跡である。ところがその代わりとなるクライアントを広告代理店は見つけられなかった。その埋め合わせとして入れてくるのがこの原稿なのである(白紙で出すわけにはいかないから)。

ずらずらと書いてしまったが、トヨタはもともと自社の都合、つまりコストカットの一環として宣伝予算を縮小している。
しかしただでは転ばないのがトヨタで、それが奥田発言だ。
「厚労省叩き、政府与党叩きをやっているメディアのスポンサーをおりてやる」と言えば、単なる宣伝予算縮小も強烈な恫喝になる。ただでさえトヨタの広告がなくなって困っているメディアは、今後、ますます「トヨタの言うことならばなんでも聞きます」とばかりに従順になるだろう。
すでにいわゆる四マスは、そのすべての媒体で広告が右肩下がりになっており、各社とも熾烈なサービス合戦に突入している。そこへ予算縮小プラス奥田発言が加われば、トヨタのメディアへの支配力はさらに高まっていくだろう。
そしてこれはトヨタのいつもの手法でもある。
以前にも書いたように、トヨタは巨大な購買者である。そうして1次、2次、3次、、、と続く下請けに対して、「それだったら買わないよ」と言うことでひたすらに製造原価を逓減してきた。
実はこれは資本主義の観点からすれば正しい行為である。あらゆる会社が多かれ少なかれやっていることでもある。が、トヨタほどこの手法を極限まで突きつめた会社はない。「トヨタのようにやりたいけれども、そこまでできない」という類の会社は多々あるだろう。その意味で資本主義の一つの理想に到達していると言えるかもしれない。
しかし、その結果として著しく社会性が欠落してしまっていることもまた否めない。

「自分さえ良ければいいのか?」

トヨタはずっと以前から、そして今もってそれを問われている。

|

« 筑紫哲也氏の訃報 | トップページ | 麻生&自民党が支配する日本はアノミーに陥っている »