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2008/01/10

ベストセラーという麻薬-草思社の経営破綻に関する雑感

ミドリ十字の続きを書こうと思っていたのだが、草思社が民事再生法の適用を申請したというニュースについて触れておこうと思う。

草思社は小規模ながら良質なノンフィクションを出版し、また少なからぬベストセラーも生んできた会社である。
思いつくままにその書名をあげれば、「清貧の思想」「声に出して読みたい日本語」「平気でうそをつく人たち」、そうして自動車評論家・徳大寺有恒氏が20年以上にわたって毎年出版してきた「間違いだらけのクルマ選び」などがパッと浮かぶ。
絶好調時には売れる芽のある本が出てくると大きく宣伝をしてさらに売上げを伸ばしたため、30人程度の規模のわりには派手で名の知れた会社である。「声に出して読みたい日本語」などは比較的最近出版された部類の本だけに今回の件は少々意外な感じもするかもしれない。

ただ中小の多くの会社がそうであるように出版専業の会社であるため、収入の手だては書籍の売り上げしかない。したがって売れない本が続くと途端に経営が苦しくなるというのは良くあることである。
もちろんネットの急成長による活字離れ、出版不況という外的要因は大きい。ここ最近は紙や印刷といった製造コストが上がっている。さらにアマゾンの急成長による流通環境の変化、委託販売という書籍独特の商慣習が崩れつつあることなども経営を苦しくした要因だろう。

その一方でそもそも出版ビジネスで採算をとるのは不可能ではないが、なかなかに難しいことも事実である。大手といわれる出版社においても書籍の販売収入に限ってみれば赤字、もしくは採算ギリギリというケースは多く、雑誌を持っていることによる広告収入、あるいはコミック部門から生み出される販売収入、さまざまなライツ収入が大きなウェートを占めているのが普通である。

では出版ビジネスの難しさはどこにあるのか。
たとえば今回の草思社のケースでは、つまづきの原因は「最近ベストセラーが出なかったから」ではないと思う。それよりもむしろ「まったく売れない本を出し続けてしまったこと」の方が問題なのだ。
もちろんベストセラーが出るのは悪いことではない。が、一方でベストセラーというのは麻薬でもある。
売れない本が少々続いてもベストセラーが出ると、書籍が単品では利益の薄い商売であってもある程度の赤字を洗い流してくれるぐらいのパワーはある。
が、ここで問題なのはベストセラーというのは狙って出せるものではないということだ。もちろん原稿が良くなくてはならないが、それ以外のさまざまな外的な要因、環境にスポッと当てはまったときに大きく化けるという類のものであって計算できるものではない。
極端にいえば、どんな素人でもベストセラーを一生の間に一回ぐらい出すことができる可能性はある。つまり「運」という要素が非常に大きいのだ。そして当たり前の話だが「運」まかせのビジネスほど危険なものはない。
私見では「最近、ベストセラーが出なくて困る」と嘆いている経営者は所詮、素人である(この手の人は意外に多い)。

ではどうすればいいのか。まず何よりも大事なことは、箸にも棒にもかからないほど売れないような本を無闇に出さないことだ。もちろん出版した本すべてが売れるわけではない。が、少なくともまったく売れない本を減らすこと(実はこのまったく売れない本というのがこの業界には山のようにある)。そしてベストセラーなどといった欲をかかず、部数は少なくてもまずは赤字にならない本、できれば何回かの増刷ができる本を定期的に出し続けることで収支バランスを黒字に持っていくことが大事で、ベストセラーなどというものは出たらラッキーなオマケ程度の認識を持っていることが大切だ。
つまり、そこそこ売れる本を安定供給できる人というのがプロの編集者で、これは単発のベストセラーを出すよりもはるかに難しく能力を求められる仕事である。
また、出版社の経営者はここのところをわかっていないと、「売れない本が出つづける→企画が夢よもう一度の一発狙いばかりになる→さらに売れない本が出つづける」という悪循環になる。

草思社の場合、そこのところはわかっているように見えたが、思いの外ベストセラーを多く輩出したことで、単なるラックを経営の1ピースとして勘定に入れてしまった可能性はあると思う。
また毎年必ず20万部以上売れていた徳大寺有恒氏の「間違いだらけのクルマ選び」がなくなってしまったことも大きかったと思われる。
ノンフィクションというのは通常、続編を作っても本編ほど売れるものではないが、この本は例外的な一冊で、取材対象が20世紀最大の発明である自動車であり、各自動車メーカーが毎年、必ず少なからぬ車種をモデルチェンジする、さらに自動車という商品を取り巻く環境がつねに変化するため、論点が多岐にわたりしかも増えていく。そのためネタ切れということがなく、毎年読んでも内容が常に新しく、しかも徳大寺氏は単にクルマの批評をしているにもかかわらず、それが結果的に広い意味での文明批評、あるいは経営批評になっているというきわめて珍しい商品であった。

今後、草思社がどうなるかはわからないが、複数の会社が興味を示しているとも聞く。
復活を祈りたい。

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