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2007/10/11

簡単には追いつかない「僅差」

今月売りの「世界」を読んでいたら、山口二郎と佐藤優の対談中に興味深い箇所があった。それは山口二郎の発言中なのだが、かつて宮内義彦オリックス会長が公然と「北海道の人口は多すぎる。二〇〇万いれば十分だ」と発言したのだそうだ。それは「北海道という広い島に隅々まで人間が住んでいるから行政コストがかかる、人がいれば学校も警察も消防も病院も置かなければならない。彼らは『経営』という言葉が好きですが、国土経営の効率を考えれば、北海道は札幌周辺だけに二〇〇万の人間がいるくらいでちょうどいい」という理由からだそうだ。

ここ1週間ほど、このようなブログにもかかわらず少なからずアクセスが増えた。その理由はトヨタなのであるが、そんなこともあってしばらくこの会社についてぼんやり考えていたところでこの文章にお目にかかった。
そうして思ったのは、トヨタというのが「効率がいいのであれば、北海道の人口を札幌周辺の二〇〇万にするというようなことを本当に実行してしまう企業である」ということだ。つまりトヨタの強さの源である徹底した効率化と集中化というのは本当にコスト優先で、この話の例を敷衍すれば、トヨタにとって札幌以外の地域に住んでいる人が自分たちが利益を上げる上でムダだと判断すれば、そこに住む人たちの気持ちなど知ったことじゃないのである。
これは今流行の新自由主義的な観点からするとまったくの「正義」なのだろう。そう考えると小泉政権というのはトヨタが長年にわたって行ってきた経営を初めて完全肯定してくれる存在だったといえる。つまり小泉と奥田碩の蜜月の関係は必然だったことになる。
ところがこのトヨタに著しく欠けているものがある。それが社会性であり人間性である。

現在、トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーにとっての生命線は北米市場で、ホンダなどは利益の8割がここから出ているとも言われている。日産が深刻な経営危機に陥った原因はもちろん複合的なものであるが、その大きな要因の一つは北米での赤字で、したがってカルロス・ゴーンが日産にやってきてまず最初に手をつけたことはここを建て直すことであった。そして結果的にこれが成功したことが、日産復活の原動力になる。トヨタにしても北米があればこその実質世界ナンバーワンだ。

ところが、これだけ強い日本車がヨーロッパ市場では依然としてさほど強くない。ホンダにはF1の名声があるが、トヨタのシェアは彼らからすれば到底満足すべき水準ではないだろう。それだけにトヨタにとってF1参戦の最大の動機は、この欧州市場でのシェアアップであることは間違いない。
ではなぜ日米でこれだけ売れている日本車がヨーロッパで苦戦しているのか。その理由について徳大寺有恒氏は「日本もアメリカも大きなマーケットだがユーザーが基本的にクルマに対して無知であるのに対してヨーロッパのマーケット、ユーザーというのはもう少し深い」 と述べている。
確かに日本車、なかでもトヨタが作るクルマの品質というのはものすごいものがある。もちろん技術的にも最高水準でハードとしての出来は欧州メーカーと互角であろう。かつては比較の対象にさえならなかったことを考えれば、これは驚異的な追い上げだと言える。しかし、そこまで差が縮まったにもかかわらず、その先に待っていたのは簡単には追いつけそうもない「僅差」だ。それが徳大寺氏の指摘する「深さ」なわけだが、欧州市場において自動車が担っている社会的、あるいは文化的背景を考えると、トヨタが単に効率化と集中化だけでクルマを作り続けるかぎり実はこの差は縮まることはないのではないか。
「1円でも安くいいものを作る」のはもちろん正義である。が、それが従業員や膨大な数の関連会社、あるいは地域社会の犠牲、つまり社会性や人間性など眼中にない自分勝手な論理の上でしか成り立たないうちはトヨタのクルマが欧州で日米市場のように売れることはないと思うのである。

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コメント

はじめてですが、失礼します。
質問なのですが、つまりヨーロッパのユーザーは車の品質ではなくトヨタの効率化一辺倒かつ非人間的な生産過程に着目して、トヨタの車を利用しないのだということなのですか?
私は自動車工業について全く詳しくありませんが、どうもそういう理由であればいまいち納得いかないのですが。
つまり、効率化というものに私が汚染されているのかもしれませんが、車を利用するにあたってやはり私ならば生産過程の非人道性よりも品質を重視してしまうので、腑に落ちないのです。品質が互角だとしても次に考える比較項目は生産過程の人道性なのでしょうか。価格やデザインなど他にもあるような気がしてしまうのです。

投稿: smoker | 2007/10/13 00:28

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